著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ワン・プラス・ワン」ジョジョ・モイーズ著 最所篤子訳

公開日: 更新日:

 ノーマンがかわいい! トーマス家で飼われている老犬だが、毛むくじゃらで、いつもよだれを垂らし、おならが異様に臭い大型犬である。一緒に車に乗ったとき、あまりに臭いので「死んじゃう!」とタンジーが叫ぶと、彼女の顔を悲しそうな目で見たりするから、かわいい。このノーマンはラスト近くで大活躍するから、けっして「巨大エサ食いウンコ製造マシーン」(ジェス談)ではないことは、ノーマンの名誉のために書いておきたい。

 本書は、この大型犬ノーマンを連れ、27歳のシングルマザー、ジェスと、その娘タンジー(数学の天才少女10歳)、さらに別居中の夫の前妻の子ニッキー(メーク好き少年16歳)、そして逮捕寸前のIT長者エド、この4人プラス1匹が、はるかスコットランドの数学オリンピック会場をめざして英国縦断の旅に出る話である。

 この作家は「ミー・ビフォア・ユー」という小説でわが国に初紹介され、本書が2作目。前著は尊厳死をテーマにした長編だったが(こちらもたっぷりと読ませる傑作だった)、今回は一転して、笑いあり涙ありの痛快読み物で、読み始めるとやめられなくなる。

 人は過ちを犯す生き物ではあるけれど、人生をやり直すことは出来る。愛するものがいて、信じられる未来があるならば、いつでも立ち直ることが出来る――読み終えると、そういう確信がむくむくと湧いてくる。これはそういう小説だ。

(小学館 1030円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  2. 2

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  3. 3

    元フジ中野美奈子アナがテレビ出演で話題…"中居熱愛"イメージ払拭と政界進出の可能性

  4. 4

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  5. 5

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  1. 6

    中居正広氏と結託していた「B氏」の生態…チョコプラ松尾駿がものまねしていたコント動画が物議

  2. 7

    中居正広氏、石橋貴明に続く“セクハラ常習者”は戦々恐々 フジテレビ問題が日本版#MeToo運動へ

  3. 8

    中居正広氏が女子アナを狙い撃ちしたコンプレックスの深淵…ハイスペでなければ満たされない歪んだ欲望

  4. 9

    中居正広「華麗なる女性遍歴」とその裏にあるTV局との蜜月…ネットには「ジャニーさんの亡霊」の声も

  5. 10

    SixTONES松村北斗 周回遅れデビューで花開いた「元崖っぷちアイドルの可能性」