著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ただいま、お酒は出せません!」長月天音著

公開日: 更新日:

 新宿の駅ビルに入っているイタリアンレストランで働く鈴木六花が、「明日から店は休業です」と通達されるところから始まる物語。新型コロナ感染症は3年目に入っても依然収束の気配を見せないが、その間いかに大変な日々を送っているかを、レストランで働くヒロインの側から描いていく長編で、読み始めるとやめられなくなる。

 たとえば、「今日、東京の感染者が4000人を超えましたって、どうなっちゃうんでしょう」という会話が出てくるが、第7波では4万人になっていることを思えば、隔世の感がある。どんどん変化していく状況に慣れてしまっているので、少し前のことを知ると愕然とするのである。

 もうひとつは、外で食事するということがどういうことであるのか、その食の本質をめぐる議論が具体的で克明で、とても興味深いこと。クレーマーもいれば感謝する人もいて、さまざまな客の生態はさらに興味深く、そういう食の風景も鮮やかに描かれている。

 最後は、主人公の鈴木六花だ。結婚して一度は退社したものの、離婚して同じ職場に戻ったときに今度はパートで再就職。つまり30代でシングルでパートなのだ。これは、そういう女性の奮闘の日々を描くお仕事小説でもある。物語の後半、店を襲う危機を、六花と仲間たちがいかに克服するか、固唾をのんで見守るのである。

 (集英社 693円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    1年ぶりNHKレギュラー復活「ブラタモリ」が好調も…心配な観光番組化、案内役とのやり取りにも無理が

  2. 2

    大リストラの日産自動車に社外取締役8人が「居座り」の仰天…責任問う大合唱が止まらない

  3. 3

    眞子さん極秘出産で小室圭さんついにパパに…秋篠宮ご夫妻に初孫誕生で注目される「第一子の性別」

  4. 4

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  5. 5

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  1. 6

    三山凌輝活動休止への遅すぎた対応…SKY-HIがJYパークになれない理由

  2. 7

    所属先が突然の活動休止…体操金メダリストの兄と28年ロス五輪目指す弟が苦難を激白

  3. 8

    大阪万博は値下げ連発で赤字まっしぐら…今度は「駐車場料金」を割引、“後手後手対応”の根本原因とは

  4. 9

    芳根京子“1人勝ち”ムード…昭和新婚ラブコメ『めおと日和』大絶賛の裏に芸能界スキャンダル続きへのウンザリ感

  5. 10

    国民民主党・玉木代表は今もって家庭も職場も大炎上中…「離婚の危機」と文春砲