本橋信宏(ノンフィクション作家)
5月×日 花房観音著「生きてりゃいいさ 河島英五伝」(西日本出版社 1650円)を読む。
長身・長髪、男のたくましさ、哀しさを朗々と歌い上げた河島英五が48歳で亡くなって24年がたつ。
「酒と泪と男と女」(作詞・作曲:河島英五 編曲:宮本光雄)、「野風増」(作詞:伊奈二朗 作曲:山本寛之)はいまだにカラオケで流れない日はない。
物書き稼業になる前の私は、短期間、ライブのスタッフとして働いたときがあった。
1979年秋、母校の学園祭で、河島英五のライブをやった。
「酒と泪と男と女」のヒットから3年がたち、人気も一段落、といった時期で、客席に余裕があった。私の後輩大学生数人を招待したのだが、彼らは河島英五の熱心なファンでもなく、同時刻にやっていたアイドル歌手のライブを観に行きたがっていた。
当初、客席は静かだったが、熱唱が伝播したのか、拍手、手拍子が時の経過とともに大きくなり、アンコールが止まらなくなった。
ライブが終了すると、さっきまで無関心を装っていた後輩学生たちが私のもとに駆けより、「いやあ、よかったです!」と握手を求めてきた。みんな、涙を浮かべている。
「呼ばれるなら、どこにでも行く」と最後までライブにこだわった。
本書には河島英五の唄と姿がなぜ心を打つのか、その背景がつづられている。
実は河島英五は甘党だった。繊細で魚、虫に触れなかったといった意外な素顔も記述されている。
5月×日 同じく花房観音著「縄 緊縛師・奈加あきらと縛られる女たち」(大洋図書 2979円)を読む。
麻縄を使い、この世で最も美しい世界を描く男・奈加あきらと、命がけで彼に縛られる女たちを作家・花房観音が追った。
そういえば京都出身の花房さん、団鬼六賞でデビューしたんだ。
質の高い人物評伝を量産する。
京女が元気だ。