「女子大生、オナホを売る。」神山理子(リコピン)著/実業之日本社
「女子大生、オナホを売る。」神山理子(リコピン)著
言わずもがなかもしれないが、オナホというのは、オナニーホール、マスターベーション用の女性器の代用商品だ。
それを女子大生が開発して、成功するという意外性が本書の売りなのかもしれない。ただ、私が驚いたのは、著者のビジネスモデルが「カネを儲けるためにはどうしたらよいか」に徹していることだ。
最近の若者の起業は、環境対策に貢献するとか、宇宙開発を進めるとか、「意識高い系」を標榜することが多い。社会貢献をうたいながら、実態は株式公開益を得ようとする金儲けといった場合がたくさんある。それと比べると、著者のやっているビジネスは冷徹なまでの資本主義だ。儲かる事業領域をみつけ、そこでのニーズを徹底的に調べ、売れる商品のコンセプトをひねり出し、売れる商品名とパッケージを作り出し、最も効果的な方法で売り出す。そして商品がヒットし、事業が回り出したら、さっさと事業ごと売り飛ばしてしまう。
本書は、そこまでのノウハウを惜しげもなく明らかにしている。しかも、ひとつひとつのノウハウが、とてつもなく具体的かつ合理的だ。著者がオナホで勝負をかけようと思ったのも、コンプライアンス上、大手企業からの参入が絶対にないからだ。そしてアマゾンを販路に選んだのも、自社サイトで顧客情報を登録してもらおうとすると、商品が商品だけに、顧客が嫌がるからだという。納得の説明だ。
ちなみに楽天市場やヤフーショッピングで売らないのは、そもそもこれらのサイトではコンプライアンス上、オナホの販売が許されないからなのだそうだ。
本書からは、著者の聡明さや誠実さがひしひしと伝わってくるのだが、だからこそオナホを売らなくてもいいんじゃないかと最初思ってしまった。だが、それはおじさんの偏見だ。それに、意識高い系のインチキビジネスや投機に没頭する若者と比べたら、彼女の作り出したビジネスは、性的機会に恵まれない男性たちに大きな恩恵を与えているのだから、むしろ社会貢献活動をしているのは、著者のほうなのかもしれないのだ。
どこまでも正直に現代のビジネスの深層を描き出した本書は、起業を考える人にとって、必読の書と言えるだろう。 ★★半(選者・森永卓郎)