「地銀と中小企業の運命」橋本卓典著/文春新書
「地銀と中小企業の運命」橋本卓典著
日本経済が抱える構造的問題に切り込んだ優れた作品だ。
日本経済を下支えしている中小企業は、中長期的には後継者難という危機にさらされている。
<中小企業庁によれば、2025年までに、平均引退年齢の70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に達するという。そして約半数の127万人は「後継者未定」だ。「日本企業全体(約367万社)の3分の1が消滅する未来」が現実味を帯びているのだ>
後継者問題ならば、まだ少し時間的余裕がある。焦眉の課題は、コロナ対策の実質無利子・無担保融資が終わることだ。
<ロシアのウクライナ侵攻、円安進行に伴う資源高も加わり、中小企業経営がダブルパンチで圧迫されるなかで、無利子期間が終わる2023年5月以降、一部返済が始まる。今後、中小企業の倒産が激増する恐れがあり、地域と地域金融は大きな分岐点に差しかかっているのだ>
ここで重要になるのが地域と密着し、中小企業の実態を熟知する地方銀行や信用金庫などがコンサルタントやコーチの役割を果たすことだ。
<小野(浩幸・山形大学大学院理工学研究科教授)は語る。/「人口滅少で持続可能性が問われる時代に必要なのは、闇雲に大規模な資金を貸し出す『狩猟型金融』ではなく、中小企業に付加価値をもたらし、課題解決や生産性向上に取り組む『農耕型金融』です」/金融機関再興の鍵は、顧客への付加価値の提供である「お役立ち」にある。どういう戦略とシステムで、どのようなサービス・商品を提供し、どのように損益管理し、成果や課題のフィードバックを得ながらサービス・商品の改善を続けていくかが問われている>
本書では実際に地方銀行や信用金庫の職員が経営に関与することによって事業を再建したり、後継者問題を解決したりした事例が挙げられており、参考になる。
特に限定された地域に密着した信用金庫は、メガバンクと異なる生態系で生きているので独自の情報とノウハウが集積されている。信用金庫をもっと活用することが日本経済活性化の鍵になると思う。
(2023年5月25日脱稿)
★★★(選者・佐藤勝)