<1>少年院の院長から「院生に聞かせたい」と依頼された
野津院長は、「落語はもともと説法だから、ぜひ院生に聞かせたい」と言ったという。
「『孝行糖』という滑稽噺をやったんだけど、まるで笑わない。少年たちは、笑うと教官に目を付けられると思ってたんですな。睨んで、ガン飛ばしてた子もいました。客は落語の初心者、こっちは慰問の初心者ですから、仕方ないと言えば仕方ない。終演後、野津院長にねぎらいの言葉を掛けていただき、『少年院は全国にありますから、地方へ仕事で行って、ちょっとでも時間があったら、その土地の少年院を慰問して下さい』と言われました」
その翌年、札幌のラジオ局に呼ばれる仕事があった。収録後、才賀は野津院長の言葉に従い、千歳空港に近い北海少年院へ慰問を申し出た。
「先方は大喜びで歓迎してくれました。挨拶に現れた院長の顔を見て驚いた。なんと野津院長じゃないですか。少し前に沖縄から札幌へ転勤して来たと言うんです。院長も驚いてました」
まさに合縁奇縁である。 (つづく)
(聞き手・吉川潮)