映画賞候補!芳根京子「Arc アーク」で挑んだ前代未聞の挑戦、17歳から100歳超まで演じきる
新型コロナウイルスが猛威を奮う世界の中で、ワクチンを打たない選択をする人もいます。個人の意思を尊重する現代社会で、コロナ禍により重症患者の方が亡くなられたりと誰もが「死」を身近に感じるようになってしまいました。
そんな中、公開となった映画「Arc アーク」は、「蜜蜂と遠雷」の石川慶監督が、ケン・リュウさんの短編小説に魅せられ映像化し、コロナ禍直前の2020年3月にクランクアップ。偶然か、はたまた必然か、映画はまさに死生観と共に人生の選択を描いた壮大な命のドラマであり、不老不死の薬が開発され、人類で初めて新薬を打ったひとりの女性の長い人生の旅を描いているのです。
■前代未聞の挑戦“変わらずに老いる”ということ
今作で2021年度の映画賞にノミネートされるのではと囁かれているのが、主人公リナを演じた芳根京子さん。彼女は17歳から100歳以上までを一人で演じきっているのですが、不老不死の薬を飲んだお陰で外見的にも老いることはないという設定から特殊メイクを施すでもなく、視線や歩き方、声の速度や佇まいで年齢を“感じさせる”という難易度の高い演技アプローチを見せてくれます。
例えば米アカデミー賞13部門にノミネートされた「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」では、80代の老人の姿で生まれた主人公が0歳で生涯を終えるまでをブラッド・ピットが特殊メイクを施し、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされるほどの熱演を披露したわけですが、芳根京子さんは特殊メイクに頼らずに、役者としての想像力を駆使し、仕草や佇まいだけで演じきったと考えれば、それがどれだけ難しいことか理解できるかもしれません。
こういった「ベンジャミン・バトン」や「Arc アーク」ような「役者の演技をとことん堪能できる」映画は、映画賞の中でも主演男優賞、主演女優賞に多大なる影響を与えます。主演の演技により物語に没入し、信憑性を与え、それがSFモノならば、あたかも近い未来に起こるかもしれないとまで思わせたら映画は成功といえるのです。
内面から“100年の厚み”を表現
果たして芳根京子さんはどう役を生み出していったのか? 芳根京子さんにインタビューした際、話していたのは「衣装とメイクに助けられました」ということ。そうはいっても10代の主人公はパーカーというラフなスタイル、30代の主人公はスーツを着て洗練された大人の女性に成長したということを視覚的に印象付けていますが、その先の100歳ともなると、24歳の芳根京子さんにとってはもはや想像の世界でしかないわけです。
それでも、劇中で風吹ジュンさん演じる女性の「足音で年齢が判る」という言葉がしっくりくるように、体重が軽くなった高齢女性を思わせる静かな歩き方でスクリーンに姿を現し、内面から100年の厚みを表現しています。
そんな芳根京子さんの今年度における映画公開作品は、父親殺害容疑で逮捕された女子大生・環菜をエキセントリックに演じた「ファースト・ラヴ」と本作。コロナの影響で残念ながら公開が来年に延期となった「峠 最後のサムライ」では、時代劇の所作も美しく、存在感を残しています。
主人公・リナの選択、映画「Arc アーク」のメッセージ
映画「Arc アーク」では、共演者の寺島しのぶさんや、岡田将生さん、小林薫さん、風吹ジュンさんといった錚々たる面々を唸らせ、多くの俳優が仕事をしたいと切望する石川慶監督が生み出す見たこともない世界の中で、コロコロと表情を変えていくリナの成長を演技で体現した芳根京子さん。
彼女のリリカルな演技により、誰もが自分の人生の主人公であると気付かせられた映画「Arc アーク」。物語では、不老不死の薬を打つか打たないか選択できる中でリナは打つことを選びますが、果たして自分だったらどうするか? 一生涯をかけて何を手にし、何を失うのか? この映画が問いかけるメッセージは非常に興味深いものなのです。