「大阪環状線 降りて 歩いて 飲んでみる」スズキナオ氏
「大阪環状線 降りて 歩いて 飲んでみる」スズキナオ氏
「大阪・関西万博が間もなく始まり、今年は大阪へ来る人が増えそうですが、道頓堀のグリコ看板、ヒョウ柄服のおばちゃん、それにたこ焼き・お好み焼きが大阪のアイコンでしょうか。でも、生活感のあるエリアに行けば、もっと大阪らしさに出合えます。私は東京から大阪に引っ越してまだ11年なので、初心者マークをつけています(笑)が、大阪には東京から消えた風景がぎりぎり踏ん張って残っているな、と感じます。『東京の友達が遊びに来たらここへ案内して、自慢しよう』と思ったところが何カ所もありました」
初出は不動産情報サイト。大阪環状線の駅の近くに物件を探そうかという人たちに、その街の雰囲気や魅力を伝えることを目的とした。大阪環状線の駅は全19。目的達成のために、著者は各駅に降り立つ。と言えばもっともらしいが、各駅を起点に気ままに散策し、出会った人に声をかけ、酒も飲む--というゆるい半日を過ごす。本書は、「自分の知らない街を知りたい」の目線が生きる、予定調和ゼロの散策記だ。
「例えば大阪駅から内回りで2駅目の野田駅。住宅街を少し歩くと大阪市中央卸売市場があり、その近くで見つけたのが激安自販機。最も安いものは、なんと10円でした。卵などを売る業者が賞味期限の近い飲料を買い取り、破格で売っているんです。さすが大阪、すごい商売(笑)。自販機の面に商品サンプルがなく、何が出てくるか分からないので、『10円でできるくじ引き』のよう。私はシュワッとしたドリンクが当たりました」
野田ではその後、年季の入ったアーケード商店街を歩き、豆腐店で濃厚な豆乳を飲んだり、「地獄谷」の異名をとる路地裏の飲み屋街をのぞいたり。最後に、創業77年のコの字カウンターの大衆酒場に着地。ビールを飲みつつ、店のお母さんから「(この辺りは)静かで、ちょっと田舎なんです」という万感がこもった言葉を聞く。
「新今宮駅は、通天閣の最寄り。周囲は観光客で混雑していますが、そこからすぐの『新世界市場』に足を踏み入れるとガラッと空気が変わりました。100年以上の歴史がある商店街ですが、一時はいわゆるシャッター商店街に近い状態になっていたらしいです。ところが行ってみたら、そんな場を盛り上げようと、宮城県気仙沼市から移住してきた若い人が中心になり、シーシャ(水たばこ)の店や、ハイボール1杯200円の屋台ができていて……」
新しい変化を柔軟に受け入れ、古くからあるものと共存しながら独特の景観が潜んでいたのだ。
ほかにも、著者は森ノ宮駅から複合商業施設の裏手に進む。印刷会社や紙器を扱う中小企業が軒を連ねるエリアに出て、小さな商店街に行き当たる。寺田町駅からは、自由の女神像が立つ古い銭湯の建物を眺め、団地の下のたこ焼き屋で一休みし、60年も営業しているという角打ちで一杯飲む。そういった半日コースの数々。
「入ったお店で隣の席から聞こえてくる地の言葉に、本当の大阪らしさを感じることも多々ありました。皆さんも、こういう大阪観光いかがですか」と著者。本書に登場する箇所をなぞるのもよし、同じノリで新規開拓するもよし。大阪行きが楽しみになること必至だ。 (LLCインセクツ 2420円)
▽スズキナオ 1979年、東京生まれ。大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」を中心に執筆中。著書に「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」「『それから』の大阪」など。