ピンク映画界史上初の女性監督 浜野佐知さんが見つけた「女の私にしか撮れないもの」
高齢女性の性愛を描いた「百合祭」は各国上映
──2本目の「百合祭」(2001年)は高齢者の性愛がテーマになっています。
69歳から91歳までの老女6人が暮らすアパートに75歳の老プレーボーイが引っ越してきてそれぞれとセクシュアルな関係を持つというストーリーなんですが、日本の男社会の反応は、「ババアのセックスなんて、だれが見たいの?」でした。高齢女性の性愛だけでなく、ラストは老女のレズビアン関係まで描きましたから、上映どころか、嫌悪感を示されました。上等じゃねえか、ならば、私がこの手でババアのセックスを日本中に届けよう、と自主公開を決めたんです。
──結果、2022年までにLGBTQ+の映画祭を含み、国内111カ所、海外24カ国58都市で上映。浜野監督の最大のヒット作となった。
「百合祭」で取り上げているテーマは、世代も国籍もセクシュアリティーも問いません。「ミックス・ブラジル」というブラジル・サンパウロで開催された国際映画祭で見てくれた日系1世、2世と思われる高齢女性から「こんなに胸にストンと落ちた映画は初めて」と言われた時は、思わず涙ぐんでしまいました。この映画祭では長編劇映画部門でグランプリを受賞しました。
イタリアのトリノで開催された「トリノ国際女性映画祭」では準グランプリを受賞し、観客の女性から「パンドラの箱を開けてくれてありがとう」と言われたのもうれしかったです。私はレッドカーペットを歩くような映画祭には興味がない。道端で魚を売るようなおばちゃんたちにこそ届く映画を作りたいんです。
──物語の中で、男性のEDを肯定的に描いているのも印象的です。
高齢期と壮年期ではセックスのスタイルも違って当たり前です。社会を覆っている「セックスはこうあらねばならない」という幻想を壊したかった。男性にとっては「硬くて、大きい」をよしとする鎖からの解放です。吉行和子さんとミッキー・カーチスさんの濡れ場で、「柔らかくて、温かくて、気持ちいい」というセリフがあるのですが、セックスに決まり事なんてない。年を取ったからこそ、自由で気持ちいいセックスができるんです。
──今後は一般映画一本?
21世紀になって、ピンク映画の製作本数も激減し、撮りたくても撮れない状況です。これからはピンク映画そのものも変わっていくのではないかと思いますが、長年付き合いのある配給会社には「最後のピンク映画は私に撮らせろ」と言っているんです。私のピンク映画人生の集大成として観客の度肝を抜くようなエロを撮りたい。もちろん、一般映画でも今の私だからこそ撮れる女の性を、女性監督としてきっちり描きたいと思っています。
(聞き手=和田真知子/日刊ゲンダイ)
▽浜野佐知(はまの・さち) 1948年、徳島県生まれ。高校時代に映画監督を志し、68年にピンク映画業界入り。若松プロなど独立系映画製作プロダクションで助監督修業の後、71年に監督デビュー。85年に製作会社「旦々舎」を設立。以後、監督・プロデューサーを兼任し、「性」を女性側から描くことをテーマに約300本の作品を発表。98年からは一般映画の製作・配給も手がける。「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011年)、「雪子さんの足音」(19年)など。著書に「女が映画を作るとき」(平凡社)など。00年第4回女性文化賞受賞。