「流転 緑の廃墟」中筋純著

公開日: 更新日:

 廃墟という言葉から連想されるのは、人間に見捨てられ、かつてそこにあったはずの人々のざわめきや温度を失ったモノトーンのような景色だ。しかし、本書に登場する廃墟は人間たちの気配が歳月を経て脱色され、自然へと回帰する過程の緑が横溢する鮮やかな世界だ。

 使役や管理という束縛から解き放たれた建物は、迫りくる圧倒的な植物に侵食され、本来の直線的な輪郭を失い、濃淡さまざまな緑のグラデーションで塗りつぶされようとしている。

 炭鉱の施設であったり、ホテル、学校、住宅と、現役時代は区分され、それぞれの用途で役目を果たしてきたそれらの建物たちは、ひとくくりに廃墟と呼ばれるようになるほど、見る影もなく朽ち果て、この世界から消滅する時を待っている。

 植物たちは、音もなく侵食していく。コンクリートの堅牢な建物だろうが、木造だろうがおかまいもなく、まずはその外壁に迫り、そして内部へと自分の領土を広げていく。

 島全体がコンクリートで塗り固めたように見える軍艦島(長崎県端島)でさえ、緑の侵食は押し寄せてきている。高層住宅と高層住宅の間から湧き上がるように盛り上がる樹木の勢いに、ほうっておけばこの遺構がまたたくまに平凡な緑の島へと姿を変えてしまう予兆を感じる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  2. 2

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  3. 3

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  4. 4

    広末涼子は免許証不所持で事故?→看護師暴行で芸能活動自粛…そのときW不倫騒動の鳥羽周作氏は

  5. 5

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  1. 6

    【い】井上忠夫(いのうえ・ただお)

  2. 7

    広末涼子“密着番組”を放送したフジテレビの間の悪さ…《怖いものなし》の制作姿勢に厳しい声 

  3. 8

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  4. 9

    大阪万博は開幕直前でも課題山積なのに危機感ゼロ!「赤字は心配ない」豪語に漂う超楽観主義

  5. 10

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育