「流転 緑の廃墟」中筋純著

公開日: 更新日:

 廃墟という言葉から連想されるのは、人間に見捨てられ、かつてそこにあったはずの人々のざわめきや温度を失ったモノトーンのような景色だ。しかし、本書に登場する廃墟は人間たちの気配が歳月を経て脱色され、自然へと回帰する過程の緑が横溢する鮮やかな世界だ。

 使役や管理という束縛から解き放たれた建物は、迫りくる圧倒的な植物に侵食され、本来の直線的な輪郭を失い、濃淡さまざまな緑のグラデーションで塗りつぶされようとしている。

 炭鉱の施設であったり、ホテル、学校、住宅と、現役時代は区分され、それぞれの用途で役目を果たしてきたそれらの建物たちは、ひとくくりに廃墟と呼ばれるようになるほど、見る影もなく朽ち果て、この世界から消滅する時を待っている。

 植物たちは、音もなく侵食していく。コンクリートの堅牢な建物だろうが、木造だろうがおかまいもなく、まずはその外壁に迫り、そして内部へと自分の領土を広げていく。

 島全体がコンクリートで塗り固めたように見える軍艦島(長崎県端島)でさえ、緑の侵食は押し寄せてきている。高層住宅と高層住宅の間から湧き上がるように盛り上がる樹木の勢いに、ほうっておけばこの遺構がまたたくまに平凡な緑の島へと姿を変えてしまう予兆を感じる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広島新井監督がブチギレた阪神藤川監督の“無思慮”…視線合わせて握手も遺恨は消えず

  2. 2

    ヤクルト村上宗隆「メジャー430億円契約報道」の笑止…せいぜい「5分の1程度」と専門家

  3. 3

    1年ぶりNHKレギュラー復活「ブラタモリ」が好調も…心配な観光番組化、案内役とのやり取りにも無理が

  4. 4

    回復しない日本人の海外旅行…出入国数はGWもふるわず、コロナ禍前の半分に

  5. 5

    故・川田亜子さんトラブル判明した「謎の最期」から16年…TBS安住紳一郎アナが“あの曲”を再び

  1. 6

    「リースバック」で騙される高齢者続出の深刻…家を追い出されるケースも

  2. 7

    眞子さん極秘出産で小室圭さんついにパパに…秋篠宮ご夫妻に初孫誕生で注目される「第一子の性別」

  3. 8

    田中圭にくすぶり続ける「離婚危機」の噂…妻さくらの“監視下”で6月も舞台にドラマと主演が続くが

  4. 9

    千葉工大が近大を抑えて全国トップに 「志願者数増加」人気大学ランキング50

  5. 10

    三山凌輝活動休止への遅すぎた対応…SKY-HIがJYパークになれない理由