<第1回>歌えと言われかたくなに拒んだ「酒と泪と男と女」
私が11歳のとき、見よう見まねでギターを弾いて、ハープ(ハーモニカ)を吹きはじめると、うれしそうな顔をして、父は言いました。
「いま曲とかあったらすぐデビューできんねんから、早くつくって、聴かせてくれよ」
そして中1の春、私を同じステージに上げ、ギターとコーラスでバックバンドに加えてくれたんです。全身から汗が流れ落ち、何時間もぶっ続けのステージの後、病院に担ぎ込まれるような姿を間近で見るようになり、娘ながらとにかく、しびれてましたね。あんなふうになりたいって。
晩年になると、自分のイメージがどうのというようなことはなくなり、「酒と泪と男と女」はアンコールでよく歌っていました。真っ暗なステージでジャン、ジャンとギターをかき鳴らし、「忘れてしまいたい事や~」と声を張り上げる。あの歌は父の人生そのものでした。