おかみさんのバルサン事件「ネタにしなきゃもったいない」

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 一之輔は、おかみさんと中学3年生、小学6年生の男の子、4年生の女の子の5人家族である。

 落語家は高座であまり家族の話をしないものだが、一之輔はまくらで、よく家族の話をして笑わせる。

「本当は家族のネタで笑いを取るような芸人にはなりたくなかったです。江戸前で、サラッとして、生活感のないほうがいい。でも、あんまり面白いことがあると、ネタにしなきゃもったいないでしょ」

 それもまた、落語家の業である。

 私が聴いて大いに笑った家族ネタは、おかみさんの「バルサン事件」である。

「ありましたね。家族で海外旅行に出かける間際に、かみさんが、バルサンをたいていこうと言いだした。長いこと留守にするから都合がいいと思ったんでしょう。各部屋でバルサンをたいたのはいいけど、1つだけ袋をかぶせるのを忘れたんで煙が充満して、火災警報が鳴りだした。仕方ないので僕が煙の中をむせながら袋をかぶせましたよ。目は真っ赤、せき込んで喉が痛い。ひどい目に遭いました(笑い)」

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