女優・紫吹淳さんが語る 宝塚「月組」トップに立った瞬間、そして引退

公開日: 更新日:

紫吹淳さん(女優/53歳)

 元宝塚スターの紫吹淳さんは、宝塚時代で男性を演じた年数と、女優として女性を演じた年数がちょうど同じになったという。その瞬間は月組でトップに立った時、そして引退の時。現在の思いと併せて語っていただいた。

 ◇  ◇  ◇

 実は私、一度も宝塚を見ていないまま宝塚の音楽学校を受けてしまったんです。踊ることが好きでバレリーナになることしか考えていなかったけど、バレエの先生に勧められて受けてみました。「宝塚だから踊れるのかな」というノリでしたね。それに受からないと思いましたし。

 そしたら受かってしまい、慌てました(笑)。周りは入りたくて入りたくて仕方ない女子ばかりでしたから、私みたいに興味がないのに受験した人はほぼいなかったと思います。

 踊りはできましたけど、歌と演技はゼロからのスタートだし、興味も湧かず、15歳の私はただボーッと授業を受けてましたね。

 宝塚って女が男役を演じるのが売りの一つ。だからか、どちらかといえば男役をやりたい子が多いんですよ。受けた時、私は男役には身長が微妙だったのですが、ある子から「合格したら髪を切らなきゃいけないんだよ」と聞かされ、「そうなんだ」と合格後に何も考えずに切っちゃったんです。

 あとで知ったことだと「髪が短い=男役がやりたい」とアピールしていることらしい。身長が低くても男役がやりたい子は短くしているんです。演劇の授業では髪の長さで「男役・女役」に振り分けられるというシステムを知らずに、私はみんな短くするものと思って切っちゃったから、必然的に男役にされました。

 自分が男役をやるんだとはっきり意識できるまで学校の2年間と、入団後の舞台で少しセリフをもらえるようになった2年の計4年かかりました(笑)。

■山のてっぺんに登って見る景色はまったく違った

 トップをとらせていただいた瞬間は、2001年。実は前年のベルリン公演で私がトップをとることになり、帰国後はまた2番手に戻り、その翌年に日本で月組のトップをとらせていただきました。かなり変則ではありました。

 日本ではトップではないのにベルリンでトップをとるプレッシャーがかなりキツくて声が出なくなり、ドクターストップがかかったほどでした。ベルリン公演を終えて帰国するとすぐ喉の手術。それだけ宝塚のトップの看板は私には大きかった。

 日本ではまず東京宝塚劇場でトップスターお披露目公演をしてから、翌年に宝塚大劇場の公演。これも変則でした。

 今まではトップの方を下から見て「大変だろうなあ」と漠然と思っていましたけど、山のてっぺんに登って見る景色は、まったく違いました。まず背負うものが大きい。組を背負って舞台に立つことが。あと、覚えるセリフ量も多い(笑)。

 バレエはやめてしまったけど、宝塚でトップに立てたということは、自分の中で全うできたことが一つつかめたという意味で、自分に誇れることでした。

 つらかったのは、周りはだれも何も言ってくれなくなったこと。下級生の頃は先生や先輩がいろいろ助言してくれたから向上できたけれど、トップになると悪いところを指摘してもらえなくなる。

「これでいいのだろうか」とずっと思って演じてきました。トップの扱いをしてくれるのが幸せでもあり、不幸でもあるのかなと。叱られているうちが華なのかなとも思います。

もっと「人間力」を上げなきゃ

 もう一つの瞬間は04年の引退。17歳で紫吹淳の芸名をいただいて初舞台を踏んでから18年間。自分の中では達成感があり、その達成感がその後の女優業で糧となっています。

 私の恩師で現在、宝塚の歌劇団で振り付けをされている羽山紀代美さんが「納得できない仕事がある時も、どうせやるなら楽しくやろう」とポジティブに言ってくれた言葉を覚えています。「楽しくできるのは自分次第」だととても思いますね。

 今年3月21日に、宝塚の18年間に女優の18年間が追いつき、男役と女役の期間がやっとトントンになりました。

 同じ期間になった日、これからの人生では「人間力」を上げなきゃいけない、と思いました。もう男も女もない、紫吹淳という人間としての魅力を上げていきたいと。

 だから次なる私の「その瞬間」は、男も女も自由自在に演じられた時ですかね(笑)。

 コロナ禍で延期になっていたミュージカルの舞台が6月から始まります。これは再演を重ね、ライザ・ミネリの10代から40代を演じてきたのですが、本作を30代で演じた時は「40代のライザの気持ちはわからないよ」と散々言っていたけど、その年齢を超えた今の私には深みのある芝居ができるのではないかと思います(笑)。

(聞き手=松野大介)

▽紫吹淳(本名:棚澤理佳)1968年11月、群馬県生まれ。86年に宝塚歌劇団入団。引退後は女優として活動。ミュージカル「THE BOY FROM OZ」主演:坂本昌行。東京公演6月18日~7月3日(東急シアターオーブ)、大阪公演7月14~16日(オリックス劇場)※問い合わせ:キョードーインフォメーション

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」