政権に忖度するテレビ朝日に「株主提案」で問題提起 勝算はあるのか…田中優子さんに聞いた

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大手ほどやらない調査報道

 ──テレビ朝日HDの株主総会は6月。市民ネットワークは昨年9月末までに48人で計4万株(400単元=約6000万円分)を購入し、会社法に基づく議題提案権行使に必要な「300単元以上の議決権を6カ月継続保有」をクリア。他の株主に提案を開示させる道筋をつけたほか、株主名簿の閲覧謄写も請求できるそうですね。

 提案できる態勢を整えたのは、すごく大事なこと。テレビの影響力はまだまだ強い。信頼しているがゆえにしっかりしてほしい。資金もマンパワーもある大手メディアこそ調査報道に力を入れるべきなのに、大手ほどやらない。おかしいでしょう。私たちは批判するのではなく、励ますための提案をしているんです。

 ──前川氏は官僚時代、安倍官邸から強い圧力を受けました。社外取締役への推薦は、テレビ朝日に果たし状を突きつけたように見えます。

 前川さんはふさわしい人物だと思います。社外取締役は取締役会などを通じて経営に助言したり、監督する立場。テレビ朝日HDの大株主である朝日新聞を含む報道機関としての経営のあり方、政権との関係をちゃんと見ておくことが必要なのであって、「公正にやってください」と言っているに等しい。番組制作の現場に直接口を挟めるわけではありません。取締役会の決定を覆すこともまずできないので、果たし状でも何でもない。それでも、テレビ朝日は私たちの提案にはなかなか応じないでしょうね。

 ──議決権比率の問題ですか。

 そのあたりは事務局の阪口徳雄弁護士が詳しいのですが、米国では株主の10%以上が賛成した提案について、会社は何らかの対応をしなければならない。相当な発言力を得られるんですよね。私たちもそこを目指したいのですが、とても遠い。さらに200倍を超える資金を投じなければならなくて。

 ──200倍! テレビ朝日HDの時価総額は2190億円超に上ります。いかに賛同を広げるかが今後の展開を左右しますね。

 この運動は今年限りのものではありません。これを機に「そういう方法があったのか」と知っていただき、来年に向けて多くの方が「一緒に株を買いましょう」となれば、大きなうねりになる可能性はあります。政府は22年末、閣議決定で安全保障関連3文書を改定しましたよね。安保政策を大転換し、大軍拡に舵を切った。それを受けて23年1月に「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」を立ち上げ、一連の動きを俯瞰したいと思って年表を作ったんです。自民党は野党時代の12年4月に改憲草案を発表し、12月に政権復帰。13年に特定秘密保護法、15年に安保法制、17年にいわゆる共謀罪法が成立した。第2次安倍政権以降の10年あまりで軍拡の流れは確固としたものになり、その間にマスコミに対する圧力を次第に強めていったのではないか。そうした思いを強めました。

■「◯◯政権」と呼ぶ意味がない

 ──確かに、深掘り報道がグッと減りました。

 沖縄に関する情報は本土では全然報じられない。自衛隊の南西シフトに対し、沖縄の人々はどう反応しているのか。メディアが伝えなければ、一般市民は正確な情報を知る術がないでしょう。それともうひとつ、企業の存在も大きい。提供(広告)を通じてテレビ局に影響を及ぼしています。軍拡に関与している企業は少なくありません。一方で、企業は消費者の声やプレッシャーを無視することはできない。そうした関係を踏まえながら、報道を望ましい方向へ持っていくアプローチを始めたということなのです。

 ──タカ派の安倍政権、菅政権の9年。当初はハト派と目された岸田政権は、3年を待たずに馬脚を現しました。

 状況はどんどんひどくなっている。首相の名前を取って「◯◯政権」と呼びますけれど、私は全く意味がないと思っているんです。自民党政権は首相が誰であっても中身は同じですから。米国の傀儡であり、抱き込まれるままなのが既定路線。訪米した岸田首相は米軍と自衛隊の指揮統制の連携強化で合意しました。その先に主権制限があるのは明白ですが、それも自民党政権は織り込み済みなのでしょう。

 ──主権の一部を切り離す方針は米軍の公式文書に明記されています。

 民主主義を担保するのは選挙です。それなのに、投票行動の前提となる情報が圧倒的に足りない。政府が、自民党が何をしようとしているのかが判然としない。だから、私たちはちゃんとした報道を求めているんです。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽田中優子(たなか・ゆうこ) 1952年、横浜市生まれ。江戸文化研究者。法政大文学部日本文学科卒、法大大学院人文科学研究科博士課程満期退学。法大社会学部教授、社会学部長、第19代総長を歴任し、現在は名誉教授。著書「江戸の想像力」で芸術選奨文部大臣新人賞、「江戸百夢」で芸術選奨文部科学大臣賞とサントリー学芸賞を受賞。2005年に紫綬褒章受章。

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