作家・紗倉まなさん 実の祖母をモデルにした意欲作『うつせみ』に込めた思い
「作中でばあちゃんには『綺麗になりたいっていうよりも、みんなと同じになりたいってことなのよね』と悟りめいたことを言わせました。整形そのものは個人の努力ですが、社会全体で見たときには別の考え方をする必要があると思ったからです。美を語る上で“個性”という多様性を考えるキーワードが必ず出てきますが、私たちの社会は個性を受け入れられているのでしょうか。“量産型の顔”という言葉もよくSNSで話題になります。ルッキズムと多様性という2つの価値観が交差するのが整形なんじゃないかと思います」
本書の視座は美醜の問題にとどまらない。辰子の生まれ育った千葉県某所は、水運の要所として豊かな河川が人々の生活を潤していたが、今では〈搾り取られるだけ取られた後の、おこぼれみたいな川〉に。ばあちゃんの記憶にあるかつての写真館はトランクルームへ、草履屋は駐車場へと殺風景に様変わりした。移ろう都市の姿にも整形が重なる。
「なんでもキレイに効率よくするために世の中は変化しているなと感じています。それはもしかしたら、整形をめぐる議論も都市の変容も同じことなのかもしれません。生きやすくなっているようで、実は、生きづらさを抱えなければいけない時代。整形や美醜についての直接の当事者でなくても、同じメッセージが響くこともあるかと期待しています」