シネマの本棚
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成田空港開港阻止に殉じた学生たちの「いま」
海外旅行で成田空港を使うたび、三里塚闘争を思い出して後ろめたい思いがこみ上げてくる……。そんな意味のことを、かつて野坂昭如がどこかに書いていた。いま、この「後ろめたさ」の意味をわかる者はどのぐらいい…
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日本統治下の台湾に登場したモダニズムな人たち
昭和初年代、日本の植民地支配下にあった台湾に、日本語で前衛詩を書く若者たちがいた。彼らの住まう台南は蒼然たる古都で、周囲に前衛文芸の理解者はなく、彼らは同人雑誌に集って心のよりどころとした。その誌名…
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ツッコミながら笑うMCU映画の最新作
この春学期に教えにいった大学で「アメコミ映画について授業で発表したいです」と申し出た学生がいたのでOKしたら中身はMCUビジネスの話だった。「マーベル・シネマティック・ユニバース」の略。日本マンガの…
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マクドナルド“創業者”の人生流転劇
ひところの苦境を脱して業績急回復というマクドナルドだが、その“創業者”の伝記映画が来週末封切りの「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」である。 いまや世界中で見る一大ファストフードチェー…
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「フクシマ」を暗喩とした現代社会の自画像
とかく対立するものと思われがちな映画の商業性と作家性だが、双方を行き来して娯楽と表現の両立をめざしてきたのが廣木隆一。その監督最新作が来週末封切りの「彼女の人生は間違いじゃない」である。 舞…
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社会主義リアリズムの中で苦闘した前衛画家
20世紀初めの共産主義運動は政治的には前衛を自負したが、文化的には保守の極みだった。いわゆる社会主義リアリズム一辺倒で、労働者の英雄的な姿を描かない芸術はすべて退廃とみなすような、愚にもつかない旧習…
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仲代が認知症の老名優役
近ごろ映画でもテレビでもめったに見ないのが「新劇俳優」。昔の日本映画には映画スターとは別枠で新劇俳優が多数登場し、若手ばかりの日活あたりなら、重厚な悪役は新劇俳優が占領したも同然だった。いま、そんな…
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ハリウッド映画を支えた絵コンテ画家
ストーリーボーダー。日本で「絵コンテ」と呼ばれる撮影台本専門の絵描きのことだが、実はこの絵コンテ画家の腕次第で映画の成否も決まってしまう。その裏話を追ったドキュメンタリーが今週末封切りの「ハロルドと…
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老いてなお「今」を生きる写真家
先月末から東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほかで公開中のドキュメンタリー映画「Don’t Blinkロバート・フランクの写した時代」が若い観衆に好評という。フランクは日本で殊の外、人気のある…
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「3月のライオン」少年の才に目をかける棋士と嫉妬する子どもたち
人気マンガの実写映画化で、前編はすでに3月末に封切り。その続きが今週末封切りの「3月のライオン」後編である。 両親を亡くした少年が父の友人のプロ棋士に引き取られ、その家の子らと育つ。少年の才…
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「作家、本当のJ.T.リロイ」 トラウマはサブカルシーンでの“名誉勲章”
昔、アメリカでベトナム戦争の帰還兵たちの対面調査をして「過誤記憶障害」の元兵士に出会ったことがある。 戦闘ストレスが高じて自分のでない残虐行為などを信じ込んでしまう心的障害のこと。そんな体験…
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「欧州連合」の不毛と希望
かつて高らかに「欧州はぼくらの運命だ」と言ったのは篠田一士。世界文学に視野を広げていた巨漢のモダニスト批評家らしい言葉だったが、今日のEU混乱はこれを皮肉に裏書きしているのだろうか。 そんな…
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小役人の「凡庸な悪」と大量虐殺
ナチの元収容所長アドルフ・アイヒマンの戦犯裁判を傍聴した哲学者ハンナ・アーレントは「上からの命令に従っただけ」を繰り返す貧相なアイヒマンの姿に衝撃を受け、「凡庸な悪」という言葉を吐いた。大量虐殺は巨…
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ワイセツ写真が露見してまた敗北 元民主党のエースの物語
自業自得でキャリアを棒に振った男が再起をかけて人生に挑む。よくある話だが、ドキュメンタリーではまた違った趣になる。先週末から公開中の「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」がまさにそれだ。 …
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「タンジェリン」愛人を寝取られたトランスジェンダーの娼婦が主人公
情報検索から撮影・録音まで何でもありになったのがスマホ。そろそろ「スマホで撮った映画」なんかが出るかもと思ったら本当にそうなった。今週末封切りの「タンジェリン」である。 撮影では3台のiPh…
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「ショコラ」ショコラとは「茶色い肌」に対する差別後
サーカスは楽しいがサーカスの映画は舞台裏を描くぶんだけ物悲しさが相場になる。来週末封切りの「ショコラ」もその定石に沿った話題のフランス映画。実在の白人・黒人道化師コンビをめぐる典型的なエレジック・コ…
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巨匠ヒッチコックと俊才トリュフォーとの対話
かつて映画を見る楽しみのひとつは、映画館に行って本編や予告編や併映の短編ニュース映画を見た上で、さらに入り口付近に貼ってあるスチール写真を見ることだった。そう、昔の映画はどのカットひとつとっても絵に…
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「ブルーに生まれついて」 マイルスとベイカー 2人の天才ジャズマンの伝記映画
なんだか奇妙なほど駆け足で過ぎた今年の暮れ、ジャズマンを主人公に描く話題の映画がつづけて公開される。現在、Bunkamuraル・シネマほかで全国公開中の「ブルーに生まれついて」と今月23日封切りの「…
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「手紙は憶えている」認知症老人のロードムービー
「老い」を描く文学や映画が増えつつある。産業先進国はどこも共通して少子高齢化の波を逃れられないからだ。 その「老い」を描いて、驚きの結末に至る映画が評判だ。封切りから1カ月を経てなお堅実な観客…
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「湾生回家」 「よそ者」意識に悩む台湾生まれの日本人
蔡英文政権が誕生して、親日ブームといわれる台湾。いや、実際は親日台湾を願う日本でのブームという側面もあるようなのだが、その台湾で製作された興味深いドキュメンタリー映画が今週末封切られる。「湾生回家」…