シネマの本棚
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スリー・ビルボード
毎年、正月明けの米映画界は、3月初めのアカデミー賞授賞式に向けて年頭から忙しくなる。今回最有力の一本が、来月1日に本邦公開される「スリー・ビルボード」だ。 有力対抗馬と目されるファンタジーも…
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歴史作家vs歴史学者の「史実」をめぐる審判
「坂本龍馬が教科書から消える?」というので先ごろ話題になった高校日本史の用語精選案。それを図らずも思い出したのが現在、都内公開中の映画「否定と肯定」である。 90年代半ば、アメリカの女性歴史学…
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「ビンボー白人」もエリート層も楽しめる娯楽作
現代の映画ビジネスは巨大化し過ぎて失敗できない。湯水のように資金をつぎ込むのは中国ぐらいで、アメリカでさえコスト管理は厳しい。それゆえ冒険はできず、才人監督はやる気をなくしてプロデューサーの「お仕事…
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革命の闘士にして好色のエゴイスト
見るもの触れるものをすべて詩に変えるといわれた天稟の詩人パブロ・ネルーダ。チリの外交官として世界を遍歴し、ファシストの弾圧に倒れた親友ロルカの死に涙した革命の闘士。他方、民衆への愛を雄弁にうたいなが…
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ゴッホの筆触で描いたアニメ映画
壁に掛けた油絵の人物が突然、動きだしたら?それを暗闇で目撃したら?――と、こんなあり得ない話が現実になった。先週末から公開中の映画「ゴッホ 最期の手紙」である。 ゴッホといえば近代絵画の夜明…
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畜産家との会話から生まれたドキュメンタリー
東日本大震災の後、銀座など東京の盛り場で、ハンドマイクを手に通行人に語りかける男性がいた。 政府と東電に畜牛の殺処分を一方的に決められた20キロ圏内の畜産農家。手塩にかけた牛を何十頭も一気に…
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上映時間の大半は真っ暗な坑道内
今年も山形では国際ドキュメンタリー映画祭が開かれている。隔年開催で世界に名高いこの映画祭で前回高く評価された日本のドキュメンタリー作品が、来週末封切りの小田香監督「鉱 ARAGANE」。 地…
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1カット長回し多用の「スローシネマ」
「スローフード」ならぬ「スローシネマ」という言葉を最近耳にする。1カットの長回しを多用し、全体の上映時間も長尺の作品のこと。「レ・ミゼラブル」「アバター」など近ごろは劇場用娯楽作でも2時間半を優に超え…
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里山を買い漁る父親と「故郷」を見いだした娘
「里山」と総称される日本の田舎もご多分に漏れず、少子高齢化のあおりにあえぐ昨今。後継ぎのいない山林農家が次々に林業を退き、山林の価格が下落する一方、それを買い漁る外国人も増えているという。 そ…
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成田空港開港阻止に殉じた学生たちの「いま」
海外旅行で成田空港を使うたび、三里塚闘争を思い出して後ろめたい思いがこみ上げてくる……。そんな意味のことを、かつて野坂昭如がどこかに書いていた。いま、この「後ろめたさ」の意味をわかる者はどのぐらいい…
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日本統治下の台湾に登場したモダニズムな人たち
昭和初年代、日本の植民地支配下にあった台湾に、日本語で前衛詩を書く若者たちがいた。彼らの住まう台南は蒼然たる古都で、周囲に前衛文芸の理解者はなく、彼らは同人雑誌に集って心のよりどころとした。その誌名…
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ツッコミながら笑うMCU映画の最新作
この春学期に教えにいった大学で「アメコミ映画について授業で発表したいです」と申し出た学生がいたのでOKしたら中身はMCUビジネスの話だった。「マーベル・シネマティック・ユニバース」の略。日本マンガの…
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マクドナルド“創業者”の人生流転劇
ひところの苦境を脱して業績急回復というマクドナルドだが、その“創業者”の伝記映画が来週末封切りの「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」である。 いまや世界中で見る一大ファストフードチェー…
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「フクシマ」を暗喩とした現代社会の自画像
とかく対立するものと思われがちな映画の商業性と作家性だが、双方を行き来して娯楽と表現の両立をめざしてきたのが廣木隆一。その監督最新作が来週末封切りの「彼女の人生は間違いじゃない」である。 舞…
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社会主義リアリズムの中で苦闘した前衛画家
20世紀初めの共産主義運動は政治的には前衛を自負したが、文化的には保守の極みだった。いわゆる社会主義リアリズム一辺倒で、労働者の英雄的な姿を描かない芸術はすべて退廃とみなすような、愚にもつかない旧習…
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仲代が認知症の老名優役
近ごろ映画でもテレビでもめったに見ないのが「新劇俳優」。昔の日本映画には映画スターとは別枠で新劇俳優が多数登場し、若手ばかりの日活あたりなら、重厚な悪役は新劇俳優が占領したも同然だった。いま、そんな…
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ハリウッド映画を支えた絵コンテ画家
ストーリーボーダー。日本で「絵コンテ」と呼ばれる撮影台本専門の絵描きのことだが、実はこの絵コンテ画家の腕次第で映画の成否も決まってしまう。その裏話を追ったドキュメンタリーが今週末封切りの「ハロルドと…
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老いてなお「今」を生きる写真家
先月末から東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほかで公開中のドキュメンタリー映画「Don’t Blinkロバート・フランクの写した時代」が若い観衆に好評という。フランクは日本で殊の外、人気のある…
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「3月のライオン」少年の才に目をかける棋士と嫉妬する子どもたち
人気マンガの実写映画化で、前編はすでに3月末に封切り。その続きが今週末封切りの「3月のライオン」後編である。 両親を亡くした少年が父の友人のプロ棋士に引き取られ、その家の子らと育つ。少年の才…
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「作家、本当のJ.T.リロイ」 トラウマはサブカルシーンでの“名誉勲章”
昔、アメリカでベトナム戦争の帰還兵たちの対面調査をして「過誤記憶障害」の元兵士に出会ったことがある。 戦闘ストレスが高じて自分のでない残虐行為などを信じ込んでしまう心的障害のこと。そんな体験…