革命の闘士にして好色のエゴイスト

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 見るもの触れるものをすべて詩に変えるといわれた天稟の詩人パブロ・ネルーダ。チリの外交官として世界を遍歴し、ファシストの弾圧に倒れた親友ロルカの死に涙した革命の闘士。他方、民衆への愛を雄弁にうたいながらあまたの女たちとの情事にふける天下の蕩児でもあった。

 人々は彼の弁舌に熱狂し、ノーベル賞詩人の名声をあがめ、アジェンデ左翼政権と命運を共にした志操に打たれたが、半面、20歳も年上の上流婦人と出世のために結婚し、名望を得たらさっさと妻を捨てて年下のキャバレー歌手に乗り換える好色のエゴイストでもあったのだ。

 そんな矛盾だらけの詩聖を描くのが先週末から公開中の「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」。

 大戦直後に共産党に入党して弾圧を受け、亡命を余儀なくされた壮年期を描くが、史実というよりネルーダの多様な素顔をブレンドしたような人物造形。それがかえって味わいの濃い異色のノワール映画に結実した。ネルーダを執拗に追う嫌みで狡猾な公安刑事役のガエル=ガルシア・ベルナルもいい。

 面白いことに、この映画とよく似た手触りの小説がある。ロベルト・アンプエロ「ネルーダ事件」(早川書房 1700円+税)は、晩年のネルーダから探偵仕事を依頼されたキューバ人青年を主人公に据えるミステリー。設定も筋も全然違うのに行間からたちのぼる「空気」が似ている。本国チリではベストセラーでシリーズ化される一方、著者はネルーダ同様に政治家としても活躍しているとか。日本の映画界にも政界にもついぞ見当たらない“大人の味わい”である。

 <生井英考>

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