「あしたのこころだ 小沢昭一的風景をめぐる」 三田完著
小沢昭一は2012年12月、83歳の生涯に幕を閉じた。亡くなる直前まで、40年続いたTBSラジオの番組「小沢昭一の小沢昭一的こころ」の収録を続けていた。
著者は作家で元NHKのディレクター。2009年からこの長寿番組の筋書き作家となり、晩年の 小沢と交流を持った。「小沢昭一的風景」を巡る著者の旅は、千日谷会堂で営まれた小沢の通夜の場面から始まる。そして、亡き人を偲びながらゆかりの地を訪ね歩き、過去へとさかのぼっていく。菩提寺のある向島、小沢がこよなく愛した下諏訪温泉のみなとや旅館、小沢が生まれ育った蒲田界隈……。
旅の道連れは、くだんのラジオ番組のプロデューサーをはじめ、小沢と縁の深かった人たちで、交わされる会話の端々から小沢への敬愛の念がにじみ出る。やや珍道中めいた小沢紀行から、小沢の素顔が垣間見えてくる。
蒲田の写真館に生まれ、麻布中学から早稲田大学に進学。学生劇団を経て新劇の世界へ。映画でも個性的な役を演じた。人生の折り返し点を過ぎてから、日本の放浪芸の研究を始め、変哲の俳号で句をひねり、ラジオの話芸で小沢節を確立。多彩な人だった。ハーモニカ、しゃぼん玉、路地歩き、ストリップに特殊浴場。渋くて、おかしくて、ちょっと助べえで、哀愁も漂う昭和のおじさん。小沢昭一にはそんなイメージがある。