米トランプ、露プーチンと肩を並べる中国・習近平。その独裁的な指導下で、中国経済の先行きが不安視される
「人民元の興亡」吉岡桂子著
基軸通貨としての米ドルの地位が揺らぐ中、世界経済の主役の座を狙うのが「紅い通貨」こと中国人民元。大戦終結から3年目の1948年、人民元は中華人民共和国の建国よりも先に誕生した。その歴史はまだ70年弱。香港ドルよりも短いが、その歴史をたどると中国国内の権力闘争や諸外国との駆け引きが見えてくる。特に隣国日本の円との関わり、いやサヤ当ては熾烈(しれつ)。「紙幣は弾丸なり」と、かつて満州国を樹立した旧日本陸軍の関東軍はそううそぶいたという。戦時中には敵国の偽札をばらまき、国家経済の心臓部を直撃するのだ。
第2の毛沢東をねらうかのような現政権トップの習近平は強力な中央集権体制を敷き、経済政策も李克強内閣に任せず、党内の複数の特別チームを通し一元管理している。しかしその透明度の低さこそが、人民元に対する信頼の根本を損ねていると著者はいう。
他方、米金融界は中国との太い人脈を持ち、特にトランプ政権と縁の深いゴールドマン・サックスは習や胡錦濤、朱鎔基らの卒業した清華大学の顧問などに名を連ねている。内部に対中強硬派を多数抱えるトランプ政権は、みずから火種を背負っているのだ。著者は朝日新聞きっての中国経済通の敏腕記者。ジャーナリストらしい語り口のうまさが際立つ。 (小学館 1800円+税)
「習近平の中国」林望著
2012年に中国共産党総書記に就任して以来、習近平は「よく語り、よく動く指導者だ」と著者はいう。経済問題、農村改革、軍再編、外交、反腐敗、インターネットの管理、食品安全問題など習に突きつけられた課題は多く、彼もまたよく応えてきた。
そんな習政権の前に立ちふさがったのが米トランプ政権の誕生。まさかと思った事態が本当になったとき、中国外交筋を助けたのが在ニューヨーク中国総領事館が持つユダヤ人コミュニティーとのつながり。戦時中ナチの迫害を逃れたユダヤ人が上海租界に身を寄せた歴史などもあって、ユダヤ系と中国は実は縁が深い。この人脈の中心にいたのがトランプの娘婿で陣営の戦略アドバイザーだったジャレッド・クシュナーだったのだ。
著者は最新情報を織り込んだ朝日新聞中国特派員。リンボウ先生とは同姓同名の別人のようだ。
(岩波書店 820円+税)
「習近平が隠す本当は世界3位の中国経済」上念司著
去る2月、産経新聞が1面で報じた「中国GDP、47兆円水増し」問題。著者は独自の調査網を活用し、改革開放路線の始まった1985年から統計数字の水増しが行われてきたのではないかとの仮説に達する。すると水増し率を3%、6%、9%のどれで計算してもGDPで中国は日本を抜いたことはなかった。つまり中国が発表する「世界第2位の経済大国」はフェイクで、ずっと日本の下に甘んじる「第3位」でしかなかったということになるのだ。
勝間和代と共同事業を営むコンサルタントの著者によれば、中国通の日本人には「上海メガネ」の傾向が強い。上海のような先端的な都市の動きや空気だけを見て、そこから得た観測を全土に当てはめてしまう愚のことだという。著者は習近平政権下の中国経済は「断末魔」状態とまで言い切っている。 (講談社 840円+税)