「怪物たちの食卓」赤坂憲雄著
「怪物たちの食卓」赤坂憲雄著
本書冒頭に「あなたを食べてもいいですか/愛しているからいいでしょう」という歌詞が引用されている。「食べちゃいたいほど可愛い」という言葉があるように、古来食と性は緊密な関係にあることは知られている。著者はすでに「食べる/交わる/殺すことに埋もれた不可思議なつながりとは何なのか」を問うた論考を「性食考」としてまとめているが、本書でも食と性の不可分な関係を探究している。
第1章で扱われているのは、筒井ともみ「食べる女」、佐野洋子「食べちゃいたい」、千早茜「わるい食べもの」、石牟礼道子「食べごしらえ おままごと」。これら女性作家が描く食と性は、従来「食べない(食べられる)」側として捉えられていた女性たちが「食べる女」へと転移し、開高健をはじめとする男たちの美食探検本とは一線を画した食=性の視点を投げかけていることを指摘している。第2章では、母の過剰な愛が我が子をのみ込んでしまうという鬼子母神的な欲望を、清水玲子の漫画「22XX」を題材に解きほぐしていく。
第4章、人食いの血筋を描いた映画「ボーンズアンドオール」の話題から食と性に加えて怪物のテーマが迫り出してくる。コシンスキの小説「ペインテッド・バード」(映画は「異端の鳥」)、メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」などを論じつつ「怪物と化した人は他者とどのように関係を結び直すことができるか」を問うていく。
小説、漫画、映画などを自在に駆け巡りながら、食、性、怪物の入り組みながらも濃密な関係を示し、最後は、精神分析学の世界大会で居並ぶ精神分析家たちを前に、自らを「怪物」と称して、家父長的な観念を規範とする異性愛を体系化している現代の精神分析のあり方を痛烈に批判したトランス男性の話で締めくくられる。自分たちを正常と見なして怪物を排除する、そんな現代社会の歪みがあらわにされている。 〈狸〉
(青土社 2640円)