トラウマを退治する「心の魔術師」の仕事ぶり
かつて「カルト映画の王位」と呼ばれた奇想の映画「エル・トポ」。日本公開は80年代半ばだったが、60年代サイケデリック文化のエッセンスそのままで、名状しがたいめまいを覚えたものだ。
その監督アレハンドロ・ホドロフスキーの最新作が先週末から「オンライン先行上映」で配信中の「ホドロフスキーのサイコマジック」である。
「オンライン先行上映」とは5月22日の劇場公開予定日とは別に、当面の選択肢でオンライン視聴も可能としたもの。
いまやネット配信もさまざまだが、今回は配給元のアップリンクが主催する「アップリンク・クラウド」経由で「通常プラン」は1900円、苦況のミニシアターを応援する目的の「寄付込みプラン」は2500円。いずれも72時間限定ながらネットテレビ、PC、スマホどれでも見られるという。
ならばこの映画、できれば部屋を暗くし、iMac27インチ級の大画面で見たいもの。
ホドロフスキーは占い師や瞑想師としてもスペイン語圏でカリスマ的な支持があるらしいが、本作は相談者の幼児体験にさかのぼってトラウマを退治する「心の魔術師」の仕事ぶりを描き出す。
どう見てもインチキくさいのに、真面目くさった彼の愛嬌にほだされるのはやはり人徳。「趣味のいいサイケデリック」とは語義矛盾みたいだが、色彩設計の確かさも本物だろう。
サイケデリックといえば忘れがたいのが高橋鮎生「OUTSIDE SOCIETY──あるサイケデリック・ボーイの音楽遍歴」(月曜社 2000円+税)。現代音楽家・高橋悠治の子息による半生記で、思春期まで欧米で前衛芸術家たちに囲まれて育った一種の英才教育の記録。
だが、天才肌の父と離婚した母の崩壊家庭の悲しい話でもある。そんな環境ゆえの不思議に透明な筆致が心に残る。
<生井英考>