現実の名建築を借景した“建築映画”
「コロンバス」
映画と建築は相性がいい。映画のセットはもともと空想の家や町のようなもので、未完の建築がスクリーン上だけ実現した例もある。来週末に都内封切り予定の「コロンバス」は、逆に現実の名建築を借景した“建築映画”だ。
古い世代は題名を見てフィリップ・ロスの小説(映画化もされた)「さようならコロンバス」を思い出すかもしれない。しかしあれはオハイオ州コロンバスの話。クリストファー・コロンブスにちなむ同名の町は北米に多数ある。
今回の舞台はインディアナ州にある人口4万5000人にも満たないスモールタウン。ただし、全米きってのモダン建築の宝庫として知られ、特に名匠サーリネンが手がけた公共建築がいくつも見られる。
その町で、世代も興味も親との関係も違う男女が出会い、しだいに人生の重大な選択に臨むようになる。小津安二郎の信奉者という監督コゴナダ(小津組の脚本家・野田高悟から採った芸名? だそうだ)は意識的にセリフで多くを説明せず、構図や画面の色彩設計やアップを避ける婉曲的な映像によって、見る者に「悟らせる」ことを意図している。まるでコロンバス版の建築図会集のように、実在する市中の名建築と人物の心情が同期するのだ。
アジア系の若手男優として腕を上げてきた韓国系のジョン・チョーと高校を出てまもない少女を演じるヘイリー・ルー・リチャードソンの組み合わせも面白く、静かな話ではらはらさせる。いかにもインディーズ作品という臭気が強すぎるものの、純なひたむきさは捨てがたい。
映画と建築の関わりを論じた本は海外には多い。わけてもドナルド・アルブレヒト著「映画に見る近代建築」(鹿島出版会 2200円+税)は先駆的な業績のひとつ。単なる雑学ではなく、映画という大衆文化が芸術のモダニズムをどう社会に広めたかがわかる好著。 <生井英考>