映画館の復活を夢見る男たちのドキュメンタリー
「ようこそ、革命シネマへ」
新型コロナウイルス禍で映画館の休止が依然として続く。対抗策として始まったミニシアター系中心のオンライン配信網も本欄で紹介したが、今回はいったん封切りされながらも突然の騒ぎで中断し、再公開を待つ映画に目を向けたい。
「ようこそ、革命シネマへ」は既に4月4日、東京と横浜で封切られたが、翌週すぐに休館。しかし実はこんな時期だからこそあえて薦めたいドキュメンタリーなのだ。
舞台は現代のスーダン。頭ははげ、ヒゲも白くなった4人の男たちが集まる。彼らは半世紀ほど前に外国の映画学校で製作を学び、母国スーダンで新しい映画作りを志した昔の仲間。だが、折から勃発したクーデターで独裁政権が誕生。「外国かぶれ」の彼らは思想犯として投獄されたり、国外亡命を余儀なくされる。
それでも数十年を経て彼らは再結集、スーダンの映画産業再興を試みる。田舎の村々をまわって野外上映会を催し、廃虚になった昔の映画館を「革命シネマ」と名付けて復活させるのだ。しかし……。
歴史に翻弄され、とうに還暦を過ぎた男たちが、再び夢を見ようとする姿が目に焼き付く。つてを頼って当局の許可を得ようと電話し、「え?国家情報治安局?」。
とたんに周囲の仲間たちが大笑い。面倒を承知で立ち上がった男たちはめったなことでは動じないのだ。監督は1979年生まれの新世代だが、老先達と気持ちが通じているのも画面をとおして伝わる。映画ならではの魔法の力だろう。
菅原慶乃著「映画館のなかの近代」(晃洋書房 4500円+税)は戦前の中国・上海を舞台とした映画文化の研究書。モダンな上海はマニアックな映画通も多く、遅刻やおしゃべりは厳禁という「教養」としての映画観賞が成立した都会でもあった。映画館という「幻想の宮殿」をめぐる、ユニークなドキュメンタリーと文化史である。
<生井英考>