休演相次ぐ中…桂文珍の国立劇場独演会が開催された背景
抗議と圧力にはあらがえなかったか
そんな中、東京事変のコンサートや桂文珍の独演会など、自粛ムードを覆して開催されたイベントを英雄視する声もあるが、それも違う。
文珍さんの国立劇場で行われている独演会開催については「貸館」「共催」という点に違いがある。国は文化庁所管の博物館や美術館、劇場の閉鎖を要請し、国立劇場での3月15日までの“主催公演”の中止を発表しているが、同件は“小屋貸し”なので、中止がマストではない。また、主催は読売新聞社と吉本興業の共催。自社の劇場を全館休演にした吉本の単独主催ならば劇場に準じて休演となるであろうが、共催となると自社だけの判断とはいかないわけで、関西では2社の“あうんの呼吸”で進んだのではないか、と言われている。旧芸名・三枝(34)にちなみ、3月4日に開催する予定だった、文珍さんの兄弟子・桂文枝さんの「創作落語300作独演会」は、まさに直営劇場のなんばグランド花月だったために中止になったのである。
くしくも3日の文珍さん独演会のゲストは桂文枝さん。生涯創作300作を掲げていた文枝さんにとっても3日の終演後に“5日以降の休演”が決定したというのもシニカルでもある。「公演は開催するが、来場できない人には払い戻しも対応する」という同公演の姿勢が自粛ムードに一石を投じてくれれば、と思っていたのだが……。やはり抗議と圧力にはあらがえなかったのだろう。
とはいえ、背景を知らずに過剰な反応をしてしまうこと、そして送り手側も冷静さを失いつつある今の状況は、エンタメ界にとって憂慮すべき事態に思えてならない。
(構成=岩渕景子/日刊ゲンダイ)