<32>早貴被告は「兄を幸せにしてくれますか?」の問いに曖昧にほほ笑んだ
「兄が幸せになるのなら、きょうだいは遺産ウンヌンに口出しをしませんから心配しないでね」
「遺産?」
彼女はクビをかしげている。この時点で早貴被告はドン・ファンの資産がいくらあるのか全く把握していなかったと思う。ただ、彼女がドン・ファンから月々100万円の小遣いをもらう約束を交わしていたことは、私もまだ知らなかった。
「親身に面倒を見てくださる方が欲しいのよ。あなたがそうしてくれれば助かるけれど……。ワガママな兄だけど、考えてもらえないかしら」
3人で話をしている最中にもドン・ファンからの着信が早貴被告の携帯に何度も届いていた。早く部屋に戻って来い、という合図である。
社長の結婚したい症候群はいつものことなので、私はドン・ファンと早貴被告との結婚について、さほど気にも留めていなかった。どうせいつものようにポシャるものだと思っていたからだ。
ドン・ファンの死後から半年ほど経ってHさんと食事をした。