<94>通夜の晩「ブンヤ風情が偉そうに」と絡んできた赤ら顔のM
通夜の晩の早貴被告は恒例として夫の野崎幸助さんの遺体に“添い寝”をすることになって、家政婦の大下さんも付き合うことになっていた。野崎さんに拾われて働いていたことがある、ひげのMと元従業員のSも、もともとホテルがなかったので、斎場に泊まる予定になっていて、早貴被告と大下さんはいったん宿泊に必要な荷物を取りに帰るため、番頭格のマコやんが運転する車でドン・ファン宅に向かった。
斎場に残ったのはMとS、そして私の3人だった。
■「でしゃばりなんだよ」
「お疲れさまだったねえ。まあ、一杯どうぞ」
ビール瓶を片手に赤ら顔のMが勧めた。
「いやあ、ビールは飲みませんので」
一度は断った。
「それはないだろう。オレの酒を断るのか? ホラ」
コップにビールをついでくるので、しょうがなく口をつけた。