<93>通夜の後、喪主の早貴被告は寿司桶をきれいに平らげた
「皆さん、お疲れさまでした。故人を偲び歓談をしたいと思います」
5月29日の通夜の後、斎場の3階広間の長いテーブルには、寿司やつまみのセットが並んだ。テーブルの両側には野崎幸助さんの遺族の兄夫婦と妹さん、アプリコの従業員全員が腰かけ、端の方にヒゲのMと元従業員のS、そして早貴被告、家政婦の大下さんが座った。そもそも、この座る位置からしておかしいのであって、喪主である早貴被告は中央にいて皆に頭を下げる立場なのに、端っこに腰かけて挨拶すらしなかった。
脇の部屋には斎場から運ばれてきた棺桶と遺影が置かれてロウソクがともっていた。
「皆さん、兄を助けてくださってありがとうございました。面識がない方ばかりなので自己紹介していただけませんか?」
妹さんが若い従業員たちに声をかけて、一人一人が名乗ってドン・ファンとの思い出を短くしゃべった。早貴被告と大下さんやヒゲのMとSは、彼らの話に全く関心がないようで、勝手に話をして目の前に置かれている寿司にせっせと箸を伸ばし、ビールを口に運んでいる。