「秀山祭九月大歌舞伎」吉右衛門が一周忌追善興行で知らしめる唯一無二の芸
第三部は『仮名手本忠臣蔵』の七段目「祇園一力茶屋の場」で、大星由良之助に仁左衛門、寺岡平右衛門に海老蔵、おかるに雀右衛門。全体にスリムで、テンポよく、進んでいく。
■海老蔵“最後の歌舞伎座”客入りよし
11月に團十郎を襲名する海老蔵にとって、「海老蔵としての最後の歌舞伎座」である。次に歌舞伎座でこの芝居に出るときは大星由良之助かもしれない。
『藤戸』も松貫四構成の舞踊劇で、吉右衛門の女婿の尾上菊之助が継いだ。菊之助は吉右衛門に容姿は似ていないが、後半、悪龍に化すと、まるで吉右衛門が乗り移っているかのようになる。
客の入りは、第三部がいちばんいい。客は正直である。
三部を通して見ると、親族・親戚であっても、誰ひとり吉右衛門に似ていない。みな芸風が異なる。逆説的に、吉右衛門の芸が唯一無二のものだったと分かる。そのなかで、吉右衛門のイメージを再現しているのが、血のつながりのない菊之助なのは、芸の継承の不思議さだ。
(作家・中川右介)