著者のコラム一覧
鈴木敏夫スタジオジブリ代表取締役プロデューサー

1948年、愛知県名古屋市生まれ。72年に徳間書店に入社。「週刊アサヒ芸能」「アニメージュ」編集部を経て、84年に「風の谷のナウシカ」を機に映画の世界に。89年からスタジオジブリ専従。「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「かぐや姫の物語」など、宮崎駿、高畑勲と共にジブリ作品を生み出す。2022年11月、ジブリパークが愛・地球博記念公園(モリコロパーク)内に開園。スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。(撮影:荒木経惟)

笠智衆3部作編(4)「杉村春子さんは息子への愛だけ先走って、実は何もできない母親の雰囲気がよく出ている」

公開日: 更新日:

 山田太一による笠智衆3部作は、主演の笠智衆に小津安二郎映画そのままのキャラクターを重ねていることも含め、小津映画へのオマージュという点で一貫している。中でも最終作の「今朝の秋」(1987年・NHK)は、その印象が強い。これは蓼科に住む笠智衆扮する鉱造が、東京にいる息子・隆一(杉浦直樹)ががんに侵されて余命3カ月だと知り、彼の最期に寄り添おうとする物語だ。小津作品で笠智衆は、「晩春」(49年)など娘を送り出す花嫁の父を演じたが、ここでは息子を死出の旅へと送り出す父に扮している。結婚式と葬式の違いはあるが、子を失う父親の寂しさを山田太一は笠智衆によって表現した。

「このドラマでは笠さんと杉浦さんの親子の関係もいいんですが、今回見直していちばん感心したのは、鉱造の妻・タキを演じた杉村春子さんでしたね」

 タキは20年前に男をつくって、鉱造と隆一を捨てて家を出ていった女性。その彼女が、息子ががんだと知って、身の回りの世話を買って出る。

「鉱造は最初、それを許さないんですが、『男親がそばにいたって何もできないんだから』と半ば強引に隆一の世話を始めるんです。ところが今は居酒屋の女将をしている彼女は、世話といっても何をしていいのかわからない。とりあえず息子が着ている物の洗濯をしようとするけど、洗濯せっけんひとつ用意していないんですから(笑)。それで病院の洗い場へ行くと、誰かが忘れていった洗濯せっけんがあって、それを盗んで洗濯を始めるんですが、このときの周りに誰もいないか見渡す感じが、ものすごくうまい。息子への愛だけ先走って、実は何もできない母親の雰囲気がすごくよく出ているんですよ」

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末