映画「ホイットニー・ヒューストン」字幕監修から見えたオモテとウラの魅力
難題に見事応えたケイシー・レモンズ監督
天才シンガーのキャリアの始まりから不幸な最期までを2時間半で。この難題に見事に応えたのは、俊英ケイシー・レモンズ監督。ホイットニーと同じアメリカ黒人女性だ。主人公がどんなに光り輝いていた時代の場面であっても、そこに不穏さを細かく描きこむことに監督は余念がない。
ずっと秘匿してきた薬物常用や同性愛のパートナーの存在からも、けっして目を背けない。超高音のイメージが強いホイットニーの歌声には、じつは豊かな低音成分も含まれているように、この映画にはきらびやかさと共に不穏さがずっとある。黒人女性ホイットニーが戦いつづけてきた人種差別や家父長制への怒り。もちろん同胞、盟友としての監督からホイットニーへの共感でもあるだろう。
■サンタはいつも生き急ぐ
40代以上の日本人にとって、ホイットニーはキラキラとしたイメージではないか。聴いていた自分の若さ、この国の好景気も重なり、ひたすら楽しい記憶となっているかもしれない。だが人が至上の楽しさを感じるとき、その裏側には「楽しさをつくる人」がいる。そちら側の人はどんな表情をしているか、知る瞬間はきまって遅れてやってくる。サンタはいつも生き急ぐ。必見の一本である。