10代で何かに猛烈に心を奪われた経験をもつ人へ…中森明夫著「推す力」は上質な成長譚だ
ぼくのX(旧ツイッター)で長らく冒頭に固定しているポストが、2022年9月に始まった本連載の初回の写真。そこでぼくはふたりの60代作家に挟まれている。彼らにはいくつかの共通点があるが、なかでも興味深いのは、それぞれ「作家」以外にもたしかな肩書きを持っていることだろう。
まずは島田雅彦。大学生時代にデビューした彼は長い執筆キャリアで知られるが、一方で大学教員という顔もある。20年前から法政大学国際文化学部教授を務め、それ以前も近畿大学の教壇に立っていた島田さんは、作家よりも教員として「センセイ」と呼ばれることのほうが圧倒的に多い人生だよと、酒場でにこやかに語ってくれたことがある。
そして中森明夫。「おたく」の名付け親で、80年代は「新人類」のトップランナー。近年は大杉栄や寺山修司といったレジェンドを自作小説の中で次々に蘇生させた奇才だが、もうひとつの顔はきわめて稀有。ずばり、アイドル評論家。それって何よ? と訝しむ人は、今すぐ「アイドル評論家」でググってみればいい。トップ画面から彼の名前と写真で埋めつくされるさまは圧巻のひとこと。