暑い名古屋の稽古場で弟子を引き締めた「鬼流」二子山親方の活
弟子育成の根本は今も同じ
名古屋以外でもそんなことがあり、のちに鳴戸親方になった元隆の里は生前、「俺たちがたるんでいるとお客さんをダシにして活を入れたり、本当に疲れていると思ったら、二日酔いのふりをして緩めてくれたりしたんだ」と語っていた。
仏地院を、今年から常盤山部屋が宿舎にする。二子山部屋の後は元太寿山、元若嶋津が借りていた。受け継ぐ常盤山親方は「引退後もあいさつに行っていました。本堂は今も変わっていない。懐かしいですね」と話す。
貴景勝があの稽古場で自分の相撲を取り戻し、若手の陰に隠れつつある隆の勝も、再び一途な押し相撲を見せてくれれば、歴史の糸が一段と太く感じられるというものだ。
至るところで日常が回復し、各部屋では後援者や地元の人たちの稽古見学もコロナ前に戻っていくのだろうか。
セミが鳴く稽古場で、人に見られることの意味も込めて活を入れた「鬼」。まずはとにかく稽古をさせる。成長や体調を凝視して細かいことも見逃さない。弟子育成の根本は今も同じはずだと、昭和の記者は思う。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。