スタジオジブリ鈴木敏夫<前編>ディズニーを相手に大勝負
そんな鈴木さんの本当の凄みを知ったのが、ジブリとディズニーの交渉の過程を聞いた時だった。ジブリ作品は時に興行的にうまくいかないこともあったが「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」とテレビ放映で、驚異の視聴率を誇っていた。これに目を付けたのが、ディズニーグループの日本支社、ブエナ・ビスタ・ジャパンのトップ、星野康二氏(現在、スタジオジブリ会長)だった。ビデオソフト化すれば誰もが買い揃えると踏んだのだ。星野氏がジブリの親会社、徳間書店を訪れると紺スーツの中年集団が大勢で話を聞き「後で連絡する」と言う。都合2年通い続けたが、実は知識も権限もないサラリーマンと会っていただけだったのだ。
ある日、新橋の徳間の会議室に、ゴルフズボンをはいた経理の人と共に、まるでペンキ屋のような格好の鈴木敏夫さんが入って来た。星野氏のプレゼンが終わると鈴木氏はほとんどの点にダメ出し。「考える」と言って席を離れ、だいぶ経ってからディズニーが入っているビルのカフェにやって来て星野氏を呼び出し、
「ビデオ化やっていただきましょう。『風の谷のナウシカ』はじめすべてのジブリ作品を販売して下さって結構です。ただし、今制作中の新作『もののけ姫』を全米上映してください」