6月歌舞伎“主役”市川染五郎の写真を載せなかった戦略ミス
松本白鸚が、当たり前ではあるが、芝居のレベルの差を見せつける。
市川猿之助と片岡愛之助は、幸四郎への「お付き合い」で出ている感じ。これくらいの演技は朝飯前ですよという余裕の演技で、どこか真剣味がない。
これまで知名度が低かった市川男女蔵が目立つ役をもらえ、好演。これをチャンスに飛躍してほしい。
そして、市川染五郎。セリフは棒読みだが、独特の間とリズムがあって、胸に突き刺さる。物語のなかの10年の歳月で、彼が演じる少年は、青年へと成長するわけだが、その変化の過程が演じ分けられている。単なる美少年ではなく、天才美少年である。何も成長しない幸四郎の光太夫とは大違い。この芝居の真の主役は、染五郎だ。なのに、ポスターに彼の写真はない。松竹の戦略ミスだ。
昼の部は、片岡仁左衛門の「封印切」に尽きる。実年齢を考えると驚異的な若さと愛嬌。この物語が「若さゆえの過ち」による、「若者の悲劇」だと伝わる。
(作家・中川右介)