「ゲッベルス」平井正著/中公新書(選者:佐高信)
N国党の扇動から透けるファシズム願望
「ゲッベルス」平井正著/中公新書
地面師ならぬ扇動師の立花孝志(「NHKから国民を守る党」党首)を見ていて、ヒトラーの宣伝マンだったゲッベルスを思い出した。もちろん、立花の方がずいぶん小型だが、ゲッベルスはこう言っている。
「われわれが国会に入るのは、民主主義の兵器庫の中で民主主義自身の武器をわれわれのものとするためである。われわれが国会議員となるのは、ヴァイマル的な物の考え方を、そのものの助けで麻痺させるためである。民主主義が自分の仇となる情けのために、われわれに無料乗車券と食事を与えてくれるほど愚かであるとしても、それはわれわれの関知しないことである」
そして「羊の群に狼が襲いかかるように、われわれは乗り込むのだ!」と続けている。ヒトラー的なファシズムを望む者として、「N国党」の立花とそれに踊らされる人たちを見ていく必要があるだろう。
30年余り前に書かれたこの本はゲッベルスの日記を駆使しながら、その政治宣伝の実態を明らかにする。私は、ナチズムを分析するにはヒトラーよりゲッベルスの人物像に焦点を当てなければならないと思うが、この本はそれに成功している。
ナチズムをわかりやすく解説した「国民社会主義者入門」でゲッベルスは「なぜ国民社会主義ドイツ労働者党か?」と問いかけ、「労働者党は国家的であり得るし、民族の問題は国民の問題だ」と説く。そして「本当の社会主義者は最良の国家主義者だ!」と続ける。巧妙なスリカエだろう。
議会主義反対派のゲッベルスにとって、議会活動は議会を破壊するためのものでしかなかった。しかし、途中で社会民主党や共産党に敗北したことを問題と捉え、「労働者党」としては、「左翼に奪われた労働者をナチ側に籠絡しない限りは、合法路線で目的を達成することはできない」と考えた。
労働者とその集まりの労働組合が争いの場となったのである。「反共」に凝り固まった連合の会長、芳野友子と自民党の接近にファシズムの危険を感ずるのは、このドイツの歴史があるからだ。連合は現在、立花的なものに抵抗する砦となっていない。扇動師で騒動師の立花は統一教会とも結ぼうとしているが、こんなことも言っている。
「政治に関心が高い有権者は元々、うちに投票なんかしない。我々が狙っているのは、普段は選挙に行かないような50%の人々であり、そこを開拓できればいい」 ★★★