ラランド・サーヤは「名誉男性」なのか? お笑い界の“女すぎる”という悪口に思うこと
ラランド・サーヤのバンドが炎上したが…
ラランド・サーヤが参加するバンド「礼賛」が大阪で行ったライブで、痴漢行為が発生。被害女性がSNSで被害を訴えたことで発覚し、さまざまな議論を巻き起こした。バンドのフロントマンであるサーヤも批判にさらされたが、その中でも「サーヤは名誉男性だ」という指摘が多く見られた。
かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという帽子田(仮名)は、「サーヤ名誉男性問題について」以下のように語る。
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巻き込まれた感のあるサーヤと礼賛
サーヤのバンドが痴漢トラブルで炎上。痴漢だけでなく、その後の対応のマズさでさらに大炎上した。サーヤやメンバーの川谷絵音はすぐに謝罪と対応策をSNSに投稿したが、コンサート運営会社が被害者を煽るようなポストをしたことで、近年まれに見るくらい波紋を呼んだ。
個人的には、「こんな運営会社の悪対応に巻き込まれて、礼賛は可哀想だな」と思った。それくらい運営会社の対応は酷いし、サーヤは矢面に立たされて特に不憫だった。
僕の考えとしてはこんな感じなのだが、この炎上の際によく見る批判があった。それは、「サーヤは名誉男性だ」という叩きだ。名誉男性とは「男尊女卑的な価値観に染まってしまった女性」のことらしい。今回はこの「サーヤは名誉男性」について考えてみたい。
女性性をネタにする=女性の敵なのか?
サーヤを批判するネットの声によると、「サーヤは男と同じ価値観で女をイジることで有象無象の女とは違うステージにいるというアピールをしているから、被害者に寄りそうことは無理」「サーヤは他人の女性性をネタにして嘲笑している」らしい。だからサーヤは「名誉男性」であり、女性だけど女性の敵だという主張だ。では果たしてそうなのか?
「サーヤは他人の女性をネタにして嘲笑している」という部分に関しては、確かにそういう部分もあるかもしれない。でも、サーヤは女性はもちろん男性もイジるタイプだと思う。
例えば「遺伝子レベルでつまんない飲み会」というコントがあるが、これは男性の権力者をイジっている。「男と同じ価値観で女をいじっている」とネットに書かれていたが、「別に平等にイジってるんじゃないの?」と思う。
「男性をイジるのはOKで、女性をイジるのはNG」という価値観だと、今後は逆に、女性芸人こそ戦うのは厳しい気がする。女性のことは女性がよく知っているし、芯を食った女性イジりもできるだろうから、女性を少しでもイジるスタンスをとると叩かれるという風潮になると難しそうだ。
ただ、サーヤの女性をイジるスタンスを不快に思う人が多かったということは、その線引きを見誤ったのかもしれない、ということは言えるだろう。
お笑い界の「女すぎる」という悪口
記事を書くにあたって参考にした記事内に、「男社会で生き残るために名誉男性にならざるを得なかった女性は、被害者でもあると思う」と書かれていた。もしサーヤが名誉男性だと見られるなら、このパターンでもあるかもしれない。
お笑い界は強烈な男社会だ。つまらない男は許されるが、つまらない女の居場所はない。つまらなくても男は趣味が多かったり、売れてる人と気が合ったりすると普通に大きな顔ができる。
でもネタで評価されていない女芸人は結構冷たく当たられている感じがする、と正直思う。お笑い界では「女すぎる」という悪口もあるくらい、女性性を下に見る風潮もある。
テレビで見るような女性芸人は本当にごく一部で、芸人としてかなり優秀な人しかいない。お笑い界で女性が居場所を見つけようと思うと、男(大多数)に引けを取らないくらい面白くて結果を残さないと認めてくれないのだ。
女性芸人のレベルを底上げする存在
その点、サーヤはお笑いのテクニックに長けすぎているし、「ブス・デブ」というステレオタイプな女性芸人のネタを使わないので、男性的なスタンスに見えたのかもしれない。
今のお笑い界で見てもトップを走る実力だし、事務所を立ち上げたりバンド活動に励んだりとバイタリティーもすごい。その強さ故に、「名誉男性」だとみなされたのだろう。サーヤからしたら「知らねえよ」という案件だと思うが、才能も名声もあるトップ芸人の一人なので、このような思ってもみない批判が来るのだろう。
ただ、サーヤには気にせずこのまま突っ走っていってもほしい。サーヤに憧れている後輩芸人は女性も含めたくさんいるし、サーヤの存在が女性芸人のレベルを底上げしているのも間違いない。
サーヤが気にせず頑張ることで、それでも身に染みる批判があれば軌道修正しつつやっていくことで、まわりまわってサーヤもお笑い界も生きやすい世界に変わっていくのかもしれない。お笑い界の端っこで生きるおじさんはそう思います。
(帽子田/芸人、ライター)