一つ一つの“歯車”を最大限魅力的に見せる三谷幸喜の神髄
劇団は大きくなっていったが、それをマネジメントするノウハウがなかったのだ。このままでは、せっかく実力のある役者たちがいるのに、生かし切ることができない。どうしようか悩んでいた三谷は発想を変えた。
「今が売りどきだ!」と。三谷は「今だったらいろんな事務所がもらってくれるんじゃないか」(フジテレビ「直撃!シンソウ坂上」19年9月19日)と考えたのだ。
各劇団員に自分が入りたい事務所の希望を聞き、三谷はそれぞれの事務所に一緒に行ってマネジメントを依頼して回った。そこには、自分だけが売れても意味がない、という思いがあったのだという。今でも「一番信頼できる人たち」(同前)と愛情を隠さない。
そうした三谷の思想は作劇にも表れている。「俳優さんがいいって言われるのは一番うれしいですね、演出家としては」(NHK「スタジオパークからこんにちは」13年10月25日)と言うように、三谷作品に出ている俳優は魅力的だ。
作品には数多くの人物が登場するが、誰一人として見せ場がない役はいない。監督も脚本家も技術スタッフも俳優も、作品にとっては「歯車」のひとつにすぎない。けれど、それは絶対に欠かせない大事な歯車。それを最大限魅力的に見せるのが三谷作品の神髄なのだ。
「つまんない役を振られた俳優を思うと申し訳ないんですよ。とにかく、みんなにやりがいのある役、やりがいのあるシーンをつくるのが僕の仕事だとずっと思ってるんです」(「シンソウ坂上」=前出)