近年アカデミー賞作品は人生相談室みたいなシケた話ばかり
3月初め、某新聞に載った、32歳の芸術家の記事は楽しかった。さすがに芸術家らしい発想、こんな偉業(!)を成し遂げたとは大したもんだと羨ましかった。映画化できないか、今日び、こんな稀有な体験記もありだろうと触発され、ご本人に連絡を取ろうと思った。
誰に強いられたのでもなく、先人がやったわけでもないから偉業は偉業だろう。その記事は伝える。
――東日本大震災で津波に家を流されたり、原発事故で家に戻れなくなった被災地の現実を見て、「社会は思った以上にもろい。だったら、住む場所に縛られることなく生活できないのか」と考えてみたと。
武蔵野美術大の建築学科を卒業する直前に震災に遭った彼は、「定住」することや「土地の私有」に疑問を抱き、自分でつくった「家」を体で担いで、足かけ7年間も全国を歩いてみせた。これは「生活」を考え直してみる試行であり、実験芸術だったわけだ。
「わが家」って何だ、30年間のローンを組んで住む家とは何だ? その土地、場所に縛られて生きる理由は? 若き芸術家は雨風しのぎに、発泡スチロールの平板と材木で小さなわが家(置けば半畳の犬小屋ぐらいか)を組み立てて自分で背負い、東京から、まるで中世の修行僧みたいに、半畳の場所から場所へ300カ所も引っ越しをして、5000キロも歩いたとか。