世田谷パブリックシアター「彼女を笑う人がいても」権力に屈した戦後ジャーナリズムの罪を問う
気鋭の劇作家・瀬戸山美咲と日本を代表する演出家・栗山民也が今の時代状況に対して真正面から挑んだ骨太の作品。今年のベスト作品といってもいい舞台だった。
物語は現在と1960年、2つの時代を往還しながら、2人の新聞記者の葛藤を通して「報道とは何か」「言葉とは何か」を描く。
2021年、大手新聞の記者である高木伊知哉(瀬戸康史)は入社以来、東日本大震災の被災者の取材を続けてきたが、企業とのタイアップ記事がメインの部署に配置転換が決まり、連載記事は打ち切りになる。新聞社は五輪のスポンサーであり、部数低迷もあって新聞の論調は復興五輪賛美に傾いていた。
やり切れない思いで伊知哉が開いたのは祖父・吾郎(瀬戸康史=二役)の取材ノート。タクシー運転手だった祖父は新聞記者だったことを孫に語ることなく没した。取材ノートは祖父の「思い残し」といえる。その中の1冊のノートは1960年の4月から6月までを記録し、最後の日付は6月16日。それは安保反対デモの渦中で一人の女子大生が死んだ日の翌日。女子大生の死の真相を追っていた祖父に何が起こったのか……。