「奇蹟 miracle one-way tecket」物語の迷宮をさまよう浮遊感が心地よい
法水連太郎といえば推理小説ファンなら先刻承知の名前が浮かぶ。中井英夫「虚無への供物」、夢野久作「ドグラ・マグラ」と並ぶ日本三大奇書のひとつ、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」に登場する探偵・法水麟太郎のもじりだ。
「黒死館--」は占星術や宗教学・物理学・医学・薬学・紋章学・心理学・犯罪学・暗号学などのおびただしい衒学趣味(学問・知識があることを人にひけらかすこと)に彩られた物語だが、この舞台も物理学の4元素やプラズマ論など衒学的な言葉遊びやらウンチクが物語の主筋をかき回す。
その中で取り上げられるのは、1973年に秋田県で起きた「聖母マリアの奇蹟」。修道女の手のひらに出血を伴った聖痕が現れたり、木製の聖母マリア像から101回もの落涙があったり、3つのお告げなどの奇蹟があったといわれている。
なぜマリアの奇蹟なのか。そこにはイエスの母であるマリア信仰とイエスの弟子の末裔であるカトリック総本山=バチカンの暗闘も絡んでくる。それらのウンチク話に観客はさらに出口のない物語の迷宮をさまようことになる。そして観客をけむに巻くようなエンディング。「つじつまが合う芝居よりも、ワケがわからないけど面白い芝居を!」という北村想の術中にはまってしまうわけで、謎をはらんだ浮遊感が心地よい。