「後ろめたさ」こそが文学 鬼才・林真理子の真骨頂とは
──こう書くと、「ははーん。さては、でも小説は読んでいませんってオチか」と勘繰られるかもしれない。が、さにあらず。ぼくは彼女の小説もかなり読んできた。昨年は引きこもり問題に向きあった『小説8050』を、今年はこの国には珍しい実名の不倫小説『奇跡』を、といった具合。多くは自分で購入したものではなく、自宅、仕事先、ときには帰省中の実家で「そこにあった」から読んだ。いずれも女性のいる場所という共通点はあるが、随所にそんな出会いの場が転がっているのは人気作家(林の表現を借りれば「流行作家」)の証といえるだろう。
別の言いかたをするなら、これほど身近に触れていても、なぜか冒頭の問いには「林真理子」と即答できない。それにもやはり理由があるのだと、最新刊『成熟スイッチ』(講談社現代新書)を読んであらためて得心が行った。同書はベストセラー『野心のすすめ』から9年ぶりの人生論。もちろん日大理事長就任と大いに関わる出版だし、実際にその話は冒頭から写真つきで出てくる。