著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「ムーラン・ルージュ」は搾取に命がけで抗う者たちの群像劇であると痛感した

公開日: 更新日:

美しい恋愛ドラマでありながら、芸術家と貴族の階級闘争を描く

 まずは6月末の平原綾香×甲斐翔真版。平原さんがボーカリストとして圧倒的力量の主であることはこの国の常識だろう。無論それはミュージカルの舞台に立つうえでも絶対的な強みだが、その日ぼくが心を奪われたのは、ダンスを含む所作のひとつひとつ。エレガンスとリアリティの高次元での両立。

 野暮を承知で言うならば、けっして歌手の余技ではない。翌日にツイッターで手短に感想をつぶやいたら、それをすぐに平原さんが引用リツイートという想定外の嬉しい出来事もあった。プリンシパルだけでなく、アンサンブルがすばらしかったこともあざやかな印象を残した。

 2回目は先の日曜(9日)の望海風斗×井上芳雄版。さすがの貫禄だった。その長いキャリアから〈帝劇の住人〉のイメージもある井上だが、ここでは〈ムーラン・ルージュ初出演に臨む初々しい若者〉を演じきってまったく無理がない。

 一方の望海は、宝塚の元トップスターという実人生に近い役柄であり、もちろんながら当たり役。彼女のこれからの輝ける演劇人生でも、屈指の代表作となるのではないか。マレーネ・ディートリッヒが降臨したような魅惑的な佇まいは、数日経った今も思いだすだけで陶然としてしまう。

 何よりも肝要なのは、これは美しい恋愛ドラマでありながら、劇中の台詞を借りれば「ド派手なプロレタリアショー」に人生をかける俳優や芸術家たちと、ショーに「金を払っている貴族」との階級闘争を描いていること。3時間におよぶ観劇後に残る体感はスイートだけに終わらず、意外なまでにビター。『ムーラン・ルージュ』は搾取に命がけで抗う者たちの群像劇であると痛感した。

 16時すぎ、たしかな満足を覚えて帝劇を出た。猛烈に混み合う玄関付近の雑踏から聞こえてくる会話で、奇しくもその日が帝劇と縁の深いジャニー喜多川氏の命日だと知った。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  3. 3

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  4. 4

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  5. 5

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  1. 6

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  2. 7

    フジ反町理氏ハラスメントが永田町に飛び火!取締役退任も政治家の事務所回るツラの皮と魂胆

  3. 8

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

  5. 10

    やなせたかしさん遺産を巡るナゾと驚きの金銭感覚…今田美桜主演のNHK朝ドラ「あんぱん」で注目

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  3. 3

    大谷の今季投手復帰に暗雲か…ドジャース指揮官が本音ポロリ「我々は彼がDHしかできなくてもいい球団」

  4. 4

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  5. 5

    フジ反町理氏ハラスメントが永田町に飛び火!取締役退任も政治家の事務所回るツラの皮と魂胆

  1. 6

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  2. 7

    やなせたかしさん遺産を巡るナゾと驚きの金銭感覚…今田美桜主演のNHK朝ドラ「あんぱん」で注目

  3. 8

    女優・佐久間良子さんは86歳でも「病気ひとつないわ」 気晴らしはママ友5人と月1回の麻雀

  4. 9

    カンニング竹山がフジテレビ関与の疑惑を否定も…落語家・立川雲水が「後輩が女を20人集めて…」と暴露

  5. 10

    “下半身醜聞”川﨑春花の「復帰戦」にスポンサーはノーサンキュー? 開幕からナゾの4大会連続欠場