「ムーラン・ルージュ」は搾取に命がけで抗う者たちの群像劇であると痛感した
先月末、帝国劇場で『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』が開幕した。上演は8月末まで続く。つまり帝劇の夏はこれ一色である。
「東宝がガチで社運をかけた」と業界人が口をそろえて言うだけあって、大がかりな舞台装置の美しさにはため息が出る。その豪華さは、主演の井上芳雄が「本当に心配になるくらいお金がかかっている」と吐露しただけでなく、10月に同劇場で『チャーリーとチョコレート工場』の主演を務める堂本光一までもが記者会見で「(『ムーラン・ルージュ』に)予算とられすぎて、こっちの予算は大丈夫ですか?」とボヤいたほど。
物語は1899年のパリが舞台。ボヘミアン、芸術家、貴族が交錯するナイトクラブ『ムーラン・ルージュ(赤い風車)』では、退廃の美にあふれた空間で豪華絢爛なショーが催される。そのスター女優サティーンと、自由な創作の場を求めてパリにやってきた米国人作曲家クリスチャンは、出会ってすぐ恋に落ち、命がけで愛しあう──。
この破格の大型ミュージカルは、スピード感に満ちた映像美で知られるバズ・ラーマン監督の2001年の同名ヒット映画に基づく。2018年にボストンで初舞台化され、翌年にはブロードウェイに進出、その後は米国ツアー、ロンドン、メルボルン、ソウルを経て、満を持して日本版上演となった。
クリスチャン役が井上と甲斐翔真、サティーンが望海風斗と平原綾香のダブルキャスト。ミュージカルに興味のある方なら、この組み合わせが現在のトップ・オブ・トップスということは容易に理解できるだろう。しかも平原と望海は少女時代に同じバレエ教室に通っていたというから、このキャスティングには因縁を感じる。
音楽面の特長は、ポップスやクラシックの名曲が網羅され、ときには複数の曲がリミックスされて劇中歌として用いられていることだ。この形式はジュークボックス・ミュージカルと呼ばれる。日本版上演にあたっては全曲が書き下ろしの日本語詞で歌われた。エルトン・ジョン「Your Song」を松任谷由実が手がけたほか、普段はポップスやロックの世界に身を置く17名のアーティストや作詞家が、1曲ずつ訳詞を担当したのだから、じつに念が入っている。
物語で大きな役割を果たす希少なオリジナル曲が「Come What May」。まず主演ふたりが歌い、終盤ではキャスト全員で歌唱する重要曲だ。その日本語詞を書く栄に浴したぼくは、仕上がりと観客の反応を確認するべく、帝劇に足をはこんだ。