著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「ジャニーズ最後の日」とダンディズムの終焉…故人たちに多くの気づきを与えられた月曜日

公開日: 更新日:

 今週月曜(10月16日)、朝のテレビはその日が「ジャニーズ最後の日」であると報じた。翌17日付で社名が「SMILE-UP.」に変わる。それを惜しみ週末のジャニーズショップや本社ビル前に集ったファンたちの様子も放送された。感傷的な「街の声」の羅列にテレビ局の魂胆を見た気がしたけれど。

 だが、テレビつけっ放しで雑事を消化していたぼくの頭の中は、夜に妻と行く予定のフランシス・レイ・オーケストラ公演のことでいっぱいだった。レイは1932年生まれ、2018年に86歳で亡くなったフランスの国民的作曲家。同年生まれで2019年に他界したミシェル・ルグランとともに、日本で最も有名なフランスの音楽家だろう。

 夕方、会場に向かう車中でふとスマホに目をやると、号外を知らせるポップアップが。アリスの谷村新司さんの訃報だった。享年74。未熟さを愛でる音楽が主流を占めるこの国のポップス市場にあって、徹頭徹尾、成熟の美学を表現してきた大歌手の人生としては、いかにも短い。やりきれない。

■谷村新司さんとの思い出

 チンペイさん(昔日のラジオ番組リスナーとしてこの愛称で呼ばせていただく)とは、1997年に一度対談した。ときにチンペイさんはすでに大物と呼ばれて久しい48歳、ぼくは29歳の生意気ざかり。当日、まだ爆発的ブームになる前の「dj honda」のキャップをかぶって彼が登場したことに、ぼくは若干の戸惑いを覚えたものだ。キャップ愛用者でも知られた彼のコレクションのひとつなのか、あるいはhonda本人と近い関係のぼくへの気遣いなのか。いずれにせよ、フォーク畑出身のチンペイさんに、ヒップホップやブラックミュージックのイメージは希薄である。

 ところが、それはぼくの知識不足だった。チンペイさんによれば、アリスの所属事務所ヤングジャパンこそはソウルの帝王ジェイムズ・ブラウンの初来日公演を実現した会社。だが公演は超のつく不入りで、2700人収容可能の大阪フェスティバルホールに集った客はわずか200人だったとか。同社が莫大な借金を背負い、ヒット曲もないアリスはひたすらライブ活動に邁進することに。1974年には前人未到の年間公演数303回を達成して人気の土壌を作り、翌75年の「今はもうだれも」でついに悲願の初ヒットを放つ。

「そう、だからアリスがブレイクしたのはジェイムズ・ブラウンの不入りのおかげやし、日本にブラックミュージックが定着したのは、じつはアリスのおかげなんよ」

 偽悪的なトーンで語ったチンペイさんは、いたずらっ子の表情で不意に「わかる? マツオ」とぼくの名を呼び、相好を崩した。それだけでも夢のような話だが、ここから始まったチンペイさんとぼくを結ぶ細い糸は、2012年、坂本冬美さんのシングル「人時/こころが」にそれぞれがWリード曲を提供するという、思いもよらぬ物語を紡ぐことになる。愉しかった夢の続きは自分で作るしかない。それが大人というもの。粋人・谷村新司はそう教えてくれた気がする。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  4. 4

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  5. 5

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  1. 6

    フジ反町理氏ハラスメントが永田町に飛び火!取締役退任も政治家の事務所回るツラの皮と魂胆

  2. 7

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  3. 8

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  4. 9

    やなせたかしさん遺産を巡るナゾと驚きの金銭感覚…今田美桜主演のNHK朝ドラ「あんぱん」で注目

  5. 10

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が