中国セレブ子女向け「日本の大学受験予備校」活況 なぜ新たなインバウンドビジネスに成長?
美大進学もひとつの目玉
同校では、東大、京大、日本の有名私大を卒業した中国人講師が指導、経験者目線で留学から日本での進路指導、生活全般の不安もカバーする。
また美大進学もひとつの目玉。最近、特に美大進学のニーズは高まっており、高田馬場駅周辺には“美大専門”とひと目で分かる、美大合格率の高さをうたった看板も数多く見かける。
「デッサンのタッチが日本の大学はアメリカ近い繊細な感じで、中国はロシアに近い濃いタッチなんです。描き方に違いがあり、そのままだと受験には適さないので“受験に受かる”デッサンを予備校で学ぶ必要があるのです」と話す美術コース講師のハンさん(25)もまた、武蔵野美術大の工芸工業デザイン科を卒業した、同校のOBだ。
「無印良品の洗練されたシンプルなデザインが好きで、日本の美術大を志望しました。中国では高校進学の段階で進路を決め、かなり専門性の高い授業を展開しています。私の高校は全寮制で、月曜から土曜までは1日14~16時間、創作活動に費やし、寮に帰ると寝るだけ。週末両親の車で実家に戻り、洗濯物を交換してまた寮に戻る生活でした。大学に合格してから、啓陽塾の講師として指導しているうちに後進の育成に生きがいを感じ、専任講師になりました」
そう話すハンさんの実家はビルのオーナー。中国都心部の子供たちは英才教育を受け、日本留学へと羽ばたくべく準備をしている。最近の「嫌日報道」とは真逆だ。
「中国のネトウヨたちは都心から離れたところに住む人が多く、うがった情報にフラストレーションをぶつけ、政府もそうしたネトウヨたちを利用して嫌日を焚きつけているのです」(前出の周さん)
啓陽塾は、前出の明治大卒の譚さん(写真中央)、中央大卒の谷さん(27=左)、早稲田大卒の劉さん(27=右)の3人で2018年に起業。
自身の予備校生徒を経て講師になった経験を生かし、新興の予備校ながらも有名大合格者を数多く輩出。120平方メートルある新事務所のほか、近隣のビルを中心に新大久保駅から徒歩3分圏内で4カ所展開し、現在400人の学生が在籍している。入学者数は右肩上がりだという。
さらに「リモート設備も充実させ、中国にいながら授業を受け、現役合格を目指す高校生もいます。さらに富裕層以外にも門戸を開くよう、啓陽塾では奨学金制度も進めています」と谷さんは話す。
若きベンチャーの獅子たちが留学先の日本でこれだけ事業を拡大させているのも驚きだろう。日本人には見えない「中国人による中国人のための新たなインバウンドビジネス」が展開されている。
(取材・文=岩渕景子/日刊ゲンダイ)