京都「赤垣屋」で“居酒屋以上割烹未満”を満喫 淡泊なのに程よく脂ののった鱧を堪能

公開日: 更新日:

第54回 京都(京都市左京区)②

 その店はコロナ禍の影響で3年前に閉めてしまったが、普段使いの居酒屋としても、法事やちょっとした接待などにも使える重宝する店だった。

 店主が目指していたのは「居酒屋以上割烹未満」。いわゆる大衆酒場よりは高級だけど割烹ほどお高くとまってはいない店、ということらしい。まあ、今思い出してもそんな感じがしないでもない。

 話は飛ぶが土井善晴さんの本でなるほどと思った言葉があった。里芋を料理するとき家庭では煮っころがしでいいが、プロの料理では含め煮を作るのが正しいという。

 プロアマの違いはさておき、さしずめ、居酒屋では煮っころがし、割烹では含め煮といったところか。前置きが長くなったが今回の店がまさにその中間を行くような絶にして妙な名店なのだ。その店は京都鴨川沿いの「赤垣屋」。京都鴨川沿いと聞いただけで我々関東人はビビってしまう。

 今回は台風の影響がいい方に作用し、開店5分前でも行列は5人ほど。これならカウンターに座れる。昭和24年創業というから京都ではまだまだ小僧っ子か(失礼!)。だが、店内は70年以上の歴史を感じさせて余りある雰囲気。若い店員さんたちは白いお仕着せに酒名の入った前掛け、頭には手拭いをかぶって、てきぱきと動いている。若干のプレッシャーにたじろぐアタシと数人のお客さんたち。

 そこにカウンターから「お飲み物、何しましょ?」。アタシは京都伏見の銘酒「神聖」の冷酒を。飾りっ気のないコップになみなみとつがれる。まずは口をコップへ。グラスじゃないよ、昔のおでん屋のコップだ。ツマミは何が何でも鱧と決めていた。

関東ではなかなかお目にかかれない

 ここの名物は鴨ロースとシメサバにおでん。経木のお品書きには舌なめずり必至のつまみが数十種。ただ困ったことに値段が書いてない。現金のみ。京都で鱧の湯引きを食ったらいくら取られるか……フトコロ不如意でおじけづくアタシの前に、それはそれは白く美しい鱧と鮮やかな紅の梅肉が出てきた。

 眼福とでもいおうか。こんな鱧は関東ではなかなかお目にかかれない。まずは梅肉をのせてひと口。淡泊なのに程よく脂がのっている。歯応えのある皮目の部分とほろりと崩れる白身。そこに梅の酸味が追いかける。で、辛口冷やをぐびり。いやぁ、参った。サ・イ・コ~。

 夢心地で周りを見渡すと皆さん盛大に盛り上がっている。ようやく酒場らしくなってきた。酒が入るまでは斜に構えていた客たちも徐々に本性を出し始めた。1巡目の料理が出終わり、主らしき板長が目の前の常連と笑顔で話している。雰囲気が和んできた。酒効果だね。アタシの隣は40代くらいの男性の一人客。店の名物を片っ端からやっつけている。「見事な食いっぷりですね」と話しかけると、名古屋から来たというその客は、「やっと入ることができました。思い残すことがないように堪能しようと思って」。

 アタシはアジの刺し身と酒をもう一杯。しめて4600円。あの鱧を食ってこの値段。やっぱりここは「居酒屋以上割烹未満」だ。

 流儀が分かったので、今度来たときは徹底的にやることにしよう。

(藤井優)

○赤垣屋 京都市左京区孫橋町9

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