決勝Tベルギー戦惜敗が覆い隠す 日本サッカーの深層と今後
善戦と無批判なメディアが日本サッカーをダメにする
そもそもハリルホジッチ前監督の解任からしておかしかった。
田嶋会長は「選手とのコミュニケーションや信頼関係が薄れた」と言ったが、最大の理由はハリルホジッチ体制では日本国内で人気も知名度もある「ビッグ3」、本田、香川、岡崎の落選が濃厚になったからだといわれる。それではマズいとサッカー協会がスポンサー筋の意をくんだ。要するに忖度によって誕生したのが今回の西野朗監督率いる日本代表なのだ。
前回ブラジルW杯は1分け2敗と、1勝もできずに1次リーグ敗退。ボール回しをするだけの「日本らしいサッカー」に限界を感じ、デュエル(仏語で決闘の意味)を重視、相手DFの裏への速攻という要素を取り入れる目的でハリルホジッチを招聘した。
これまでのサッカーでは世界で通用しない、戦術やスタンスを変える必要があると判断したからこそハリルにチームづくりを託したはずなのに、その成否を確かめる以前にクビを切ったのだ。
「要するにサッカー協会はスポンサーへの忖度を優先して、これまでの3年間を丸ごと捨ててしまったわけです。いかに確固たる信念も長期的なビジョンもないかという何よりの証左ですよ」とは前出の工藤氏だ。
スポーツライターの平野史氏もこう言う。
「まず日本がどういうサッカーをやりたいのか。本当に日本人のサッカーに向いているのか。本来はそこから監督選びをしないといけないはずです。例えば対戦したベルギーは、02年から2大会W杯に出られず、これはいけないと長期的な育成システムを構築しました。その結果が前回のベスト8であり、今回の好調な戦いぶりにつながった。しかし、日本の場合はひとまず来てくれる人に任せ、あとは丸投げ。協会にビジョンがないのは昔からで、今に始まったことではありません。けれども、今回決勝Tに出たことで、そういったことまでうやむやになるのが懸念されます。そこが一番の問題です」
■次回W杯の監督は森保一氏が既定路線
戦前のおおかたの予想に反して決勝Tに進出したことで、それまで批判的だったマスコミは一斉に手のひらを返して西野采配を持ち上げた。しかも、この日のベルギー戦の惜敗を受けて、善戦、よくやったとほめそやしている。ちまたに美辞麗句があふれ、根本的な問題点がかき消されるようなことになっては何も変わらない。いや、周りが進化している分、後退することになりかねないのだ。
サッカー協会は1次リーグを突破した西野監督の手腕を高く評価。今大会後も引き続き、日本代表の指揮を執らせる方向だ。
20年東京五輪まで続投させ、その後は現在A代表のコーチを兼任するU―21日本代表の森保一監督にバトンタッチ。線次回W杯は森保コーチが指揮を執るのが既定路になっている。世代を超えた継続的な強化が可能というが、日本人監督はまだ、時期尚早ではないか。
「協会内には『いつまで外国人に頼っているんだ』と日本人監督を推す声もありますけど、96年まで名古屋で監督を務め、今季限りで22年指揮したアーセナルを離れるベンゲル監督のようなトップクラスの外国人監督なら、学ぶことはまだまだあるでしょう。まずは協会が明確なビジョンを示すことが大切なのです」(平野史氏)
試合後の西野監督も選手たちも「壁は厚い」と口をそろえた。日本サッカー界はまだまだ、成熟しているとは言い難い。スポンサーの顔色をうかがい、波風が立たないからと日本人指揮官を据えているうちは、チームは退化するばかり。よくやったと、はしゃいでいる場合ではないのだ。