ワリエワはたとえ北京フィギュア金でも“針のムシロ”…五輪後も続く検査地獄と疑惑の目
ロシア女王がドーピング騒動をよそに圧巻の演技を披露した。
15日のフィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)でカミラ・ワリエワ(15、RОC=ロシア・オリンピック委員会)が82.16点をマーク。冒頭の3回転ジャンプで着氷を乱したが、昨年の世界選手権女王アンナ・シェルバコワ(17=RОC)を抑えて首位に立った。17日のフリーでは2種類の4回転ジャンプを武器に2014年ソチ五輪から続くロシア勢による3連覇を目指す。
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開幕後、禁止薬物使用が発覚し、暫定資格停止処分を受けた。今大会への参加を禁止されたが、RОCから異議申し立てを受けたRUSADA(ロシア反ドーピング機関)は処分を解除。これを不服としたIОC(国際オリンピック委員会)とWADA(世界反ドーピング機関)はCAS(スポーツ仲裁裁判所)に訴えたが、16歳未満で要保護の対象になることなどを理由に出場を認められた。
CASによる大甘裁定には各国のスポーツ界から疑問視する声が上がり、浅田真央のライバルで10年バンクーバー五輪金メダルのキム・ヨナ(韓国)は自身のSNSに「ドーピング違反をした選手は試合には出場できません。この原則は例外なく順守されるべき。全ての選手の努力と夢は等しく尊いものです」と投稿。ロシアとメダル獲得数を争う米反ドーピング機関のトラビス・タイガートCEОは「ロシアは五輪をハイジャックし、クリーンなアスリートと公衆から機会を奪っている」と痛烈に批判した。
当のワリエワは現地時間14日、ロシアのテレビ局のインタビューに応じ「五輪に参加できてうれしい。国の代表として最大限の努力をしたい」としながら、「ここ数日は感情的に難しい日々だった。精神的に疲れた。だから、喜びの涙と少しの悲しみがある」と複雑な胸の内を明かしている。
ワリエワが、五輪女王の称号を手にしても針のむしろ状態は間違いなく続く。ドーピング問題の調査は継続中で、結果次第ではメダルが剥奪される可能性がある。今後、ワリエワを語る上で「ドーピングの」といった枕ことばが付けられ、GPシリーズなどの国際大会で結果を残すたびに、禁止薬物使用を疑われるのは必至だ。
女子アスリートでもドーピング検査は容赦ない
ドーピング検査にしても他の選手以上に執拗に繰り返されることになる。国内の大会のドーピング検査は、その国の検査機関が請け負うのが原則。RUSADAは国ぐるみによるドーピングに加担した前科があるだけに、今後はWADAがロシア国内に検査官を派遣するなど、ワリエワを筆頭にトップアスリートを徹底監視するという。
当然のことながら、ドーピング検査は厳格で、競技後に会場で検体を採取されるのはもちろん、「競技外検査」といわれ、選手の自宅や練習拠点などで行うケースもある。いずれも事前通告はなく、抜き打ちで実施される。
ある金メダリストによれば、女子アスリートでもドーピング検査は容赦がない。尿の採取は同性の検査官が前に立ったまま行われ、過去には他人の尿とすり替えたケースもあることから、実際に放尿しているか確認される。着用しているTシャツなどは胸の位置までたくし上げ、ズボンや下着は膝下まで下げる規定があるという。
ワリエワのようなトップアスリートともなれば、プライベートも監視されるだろう。各国の代表クラスの選手は検査機関に練習場所や合宿地、遠征先などの届け出が義務付けられている。検査官は「所在確認」を行うため、申告した場所に抜き打ちで出向き、検体を採取。仮に不在3回ならドーピング違反と見なされ、資格停止処分を科される。19年陸上世界選手権男子100メートル王者のクリスチャン・コールマン(米国)は同年に所在確認の不申告が3度あり、金メダルを期待された昨夏の東京五輪に出場できなかった。
一度はクロと判定されたワリエワの元には検査官が訪れる回数が増えるとみられる。世界中からの好奇の視線を含め、地獄のような日々が待ち受けるのだ。
スケーティングスキルの高さと表現力の豊かさで相手が太刀打ちできない演技を披露することから「絶望」の異名を持つワリエワ。ロシア国家から過剰な期待を寄せられる15歳のスケーターは自身に絶望することなく、フィギュアスケートを極められるのか。