ワリエワのドーピング問題をIOC最古参委員がコキ下ろしても…ロシアを完全追放できない理由
「絶対的に手に負えない場合は、五輪で1回、2回、3回のタイムアウト(一時休止)を必要とするかもしれない」
フィギュアスケート女子のワリエワ(15、ROC=ロシア・オリンピック委員会)のドーピング騒動を巡り、IOCの最古参委員であるパウンド氏(カナダ)が12日、カナダ放送局のインタビューでロシア批判をブチぶち上げた。
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ロシアは2014年ソチ五輪での組織的ドーピングにより、国としての参加資格を剥奪されているにもかかわらず、今度は弱冠15歳のワリエワにドーピング違反が発覚したことに「ロシアは全く反省していない。どうしようもない」とコキ下ろした。
15日に行われる女子ショートプログラムの出場可否は、IOCの提訴を受けたスポーツ仲裁裁判所(CAS)が14日午後にも裁定を下す見通しだが、騒動は“国際問題”に発展する可能性もある。
複数の米メディアによると、米国反ドーピング機関のタイガート最高責任者は、ドーピング問題に関与したロシア人を「ロドチェンコフ法」に基づき訴追する可能性を指摘。CNNによると、「米国は同法に基づき、自国の選手やスポンサー、放送局が関わる主要な国際スポーツ大会でのドーピングに関与した者に刑事制裁を科すことができる」という。
かねてロシアの無秩序ぶりは国際社会から非難を浴びている。五輪から完全に“追放”されてしかるべきだが、IOCはロシアへ強権発動するのか。スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は「ロシアを外すつもりは毛頭ないでしょう」とこう言う。
「ワリエワの裁定を行うCASは、五輪開催のたびに開催地に出張所を作っている。それだけ問題が起こることを見越しているからです。それでも勝利至上主義と参加国の貧富の格差がある以上、ドーピングはなくならない。IOCは国連への対抗意識が非常に強く、何より加盟国の数を誇っている。サマランチ元会長も過去、『国連よりもIOCの方が加盟国が多い』と胸を張っていたくらい(国連=193カ国、IOC=206の国・地域)。国を増やすことはあれど、自ら減らすことは絶対にしない。反論材料もある。他国が『ロシアを追放せよ』と言っても、IOCは『五輪は国家間の競争ではない』などと都合良く五輪憲章を利用するでしょう」
しかもロシアは、36年夏季五輪の招致を検討している。莫大な費用がかかる五輪開催は国民からの反発も招くため、名乗りを上げる国は減っている。地球温暖化などの影響で、冬季五輪開催の条件を満たす都市がほとんどなくなるとの報告書もある。カネ儲けのことしか頭にないIOCやバッハ会長にとってロシアは「上客」と言っていい。谷口氏が続ける。
「IOCはなおさらロシアを排除できませんよ。パウンド委員はIOCの長老的存在で、バッハ会長に唯一モノを言えるだけでなく、バッハ会長とは異なる意見を持っている。しかし、彼の意見がIOC内で議論に発展したという話は聞かない。どこまで影響力があるかは疑問です」
そもそもIOCはロシアに対して弱腰だ。ドーピング違反で国としての参加を剥奪した一方で、個人資格で参加する道を残した。プーチン大統領の開会式出席についても、ロシアに制裁を科したCASは五輪開催地に政府関係者や国会議員らの立ち入りを禁じているにもかかわらず、「開催国の元首の招待」という特例で入国を認めた。国際社会から「IOCや中国はドーピング違反を軽視している」と批判を浴びた。
この日、ワリエワは公式練習に臨み、4回転ジャンプを次々と着氷した。世界反ドーピング機関(WADA)の規定によると、16歳未満の「要保護者」に該当する選手には「より柔軟な制裁措置規則が適用される」という。コーチやドクターら「大人」にも調査が及ぶものの、ワリエワに落ち度がないと判断された場合、「けん責」で終わる可能性もあるという。ロシアが正当性を主張するなど開き直りができるのは、IOCの体質とも無関係ではない。