代表初ゴールの久保建英はネイマールの「オイシイ場所で待ち構える」を見習え
マジョルカ所属の日本代表FW久保建英が、6月10日のキリンカップ・ガーナ戦で代表17試合目にして初ゴールを決めた。
2019年6月9日のエルサルバドル戦で代表にデビューしてから10代での初ゴールを期待されたものの、約3年の月日を要した。
試合直後の久保は「長かったですね。このまま一生(得点が)入らないかと思った。(アシストの)三笘さんのおかげですね」とテレビカメラの前で安堵の表情を浮かべたが、このコメントはおそらく本音ではないだろう。
■フリーで初ゴールを押し込んだ
というのも、その後のオンライン会見では「1本(ゴールを)取るのに長いと見えるかもしれないし、次は気持ちが吹っ切れたので固め打ちというか、(ゴールが)続くかもしれない」という言い回しでメモリアルゴールに満足していないことを表現したからだ。
そんな久保のゴールだが、左サイドを突破した三笘のアバウトなクロスに絶妙なタイミングでゴール前へと走り込み、フリーの状態からワンタッチで押し込んだ。
このシーンだけを見れば「フリーだったので決めて当たり前」と思われるかもしれない。
しかしながら、この「フリーになる」というのがサッカーでは、実に難しいことなのである。
多くの選手、とりわけ前線の選手は「相手よりも先にボールに触ろう」と気が急いてしまって早め、早めにゴール前に飛び込もうとしてしまう。するとどうなるか。
当然、DFのマンマークに遭ってフリーでプレーすることは出来なくなる。
早過ぎず、そして遅過ぎず、絶妙のタイミングでクロスの入ってくるエリアを予測し、そのポイントに入り込むのが肝となる。
こう口にするのは簡単だが、実はこれがなかなか難しい。
2戦目の相手・ブラジルのFWネイマールは、いとも簡単に日本DF陣の密集するペナルティーエリアに入り込んでいった。
たとえば開始早々の2分、ペナルティーエリア中央でタテパスを受けるとヒールキックで左に後方に流し、FWルーカス・パケタの左ポスト直撃のシュートをお膳立てをした。
ネイマールは捕まえづらい選手
ネイマール自身も日本戦でチーム最多の8本のシュートを放ったが、彼の持ち味に「とにかく捕まえづらい選手」というのがある。
バイタルエリアで攻撃の組み立てに参加しながら、味方がボールを保持して攻め上がったからと言って、直ちに猛ダッシュしてゴール前に突進することはしない。
フラフラと動きながら、味方がサイドからのドリブル突破やワンツーを仕掛けると見るや、スススッとペナルティーエリア内に忍び寄っていく。
そして、日本のDF陣がFWのラフィーニャやビニシウス、右SBのダニ・アウベスらの攻撃に気を取られている隙にネイマールは、ちゃっかりとシュートを狙える「オイシイ場所」で待ち構えているという寸法だ。
かつて3年連続でJ1リーグの得点王に輝いた大久保嘉人氏は、川崎Fに移籍した際に風間八宏監督(当時)から「動き過ぎだ」と指導されたという。
マークを外すためにFWは、相手DFに対していろいろな駆け引きを仕掛ける。
風間監督は、ボールが来ない段階でマークを外す動きをやっても「あまり意味がない」と言いたかったのではないだろうか。
実際問題、マークを外す動きは一瞬で良いわけだし、そもそもクロスが来る直前の一瞬に外すことが、何よりも効果的というものだ。
■インサイドハーフで肩の力が抜けた
晩年の大久保氏は、ボールがあるサイドとは対角になるアザーサイドでクロスを待つことが多かった。
ボールを保持する味方選手とゴールとGK、ゴールエリアを同一視野に捕らえられるポジショニングだ。ここからクロスの弾道を予測し、マーカーを振り切ってCBの前に入ってヘディングシュートを決めたり、GKの鼻先でボールに触れて押し込んだりしながらゴールを量産していった。
大久保氏のプレーもネイマールのプレーも、同じプロ選手といえども簡単にマネできるわけではないだろうが、イメージとして持つだけでもプレーの幅が広がるかもしれない。
そして久保である。
これまで日本代表では右FWで起用されることが多かった。このためカットインしてからの左足シュートだったり、強引にタテを突破して無理な体勢からでもシュートを狙ってきた。が、相手も強固は守備ブロックを作っているのでなかなかゴールに結びつかなかった。
しかしガーナ戦ではインサイドハーフに入ったことで、状況に応じてシンプルにプレーすることが増えた。
筆者には「肩の力が抜けた」ようにも見えた。そして代表初ゴールである。
決まる時には、あっさりと決まるもの。それが、サッカーのゴールでもある。